第678号コラム:丸山 満彦 監事(PwCコンサルティング合同会社 パートナー)
題:「ティラノサウルスとスズメ」

 こどもの頃からの疑問(なぜ大量絶滅がおこったのか)

 こどもの頃から生物が好きで、時間があれば学研の昆虫、動物、植物、恐竜の図鑑を読んでいました。中学生や高校生になるとブルーバックスで生物関係の本をよく読んでいました。生物関係で子供の頃から気になっているのが、大量絶滅です。約46億年前に地球が誕生し、(諸説はありますが)その6億年後の約40億年前に最初の生物が誕生したと言われています。そして約21億年前に今の人間につながる真核生物が生まれたと言われています。当初の生物は化石に残るような硬い部分が少なかったと思われ、今となっては偶然に化石なった部分が地表に現れ、発見された部分をつなぎ合わせたものであり、本当のことはよくわかっていないのだろうと思います。多細胞生物が現れたのは約6億年前です。

 さて、それでも5億年前頃になると多数の化石が発見され出します。カンブリア紀と言われる時代で、古生代の始まりです。化石として残りやすい生物が多数生まれたのでしょう。古生代になって以降、5度の大量絶滅(4億4380年前頃のオルドビス紀末(O-S境界)、3億7220年前のデボン紀末(F-F境界)、2億5100年前のペルム紀末(P-T境界)、2億130年前の三畳紀末(T-J境界)、6600万年前の白亜紀末(K-Pg境界))が起こります。

 最大の大量絶滅は、古生代から中生代の変わり目となるペルム紀末(P-T境界)の大量絶滅と言われています。ペルム紀末の大量絶滅では、海生無脊椎動物は種レベルでは90%以上、科レベルでも50%が絶滅したと言われています。化石でお馴染みの三葉虫が絶命したのもペルム紀末の大量絶滅です。また脊椎動物では、科レベルで実に82%が絶滅したようです。また昆虫やクモといった陸生無脊椎動物や植物など、その他の陸上生物もたくさんの種類が絶滅したようです。古生代では、今の哺乳類に繫がる単弓類が陸上動物としては支配的でしたが、この大量絶滅を境に爬虫類の時代になります。哺乳類は恐竜の影となってしまいますが、しぶとく生き残っていたようです。なお、このペルム紀の大量絶滅が起こった理由はよくわかっていないようです。

 さて、大量絶滅で一番有名なのは、6600万年前の白亜紀末にいわゆる恐竜が絶滅したK-Pg境界でしょう。種レベルでは75%が、個体レベルでは99%が絶滅したと言われています。化石で有名なアンモナイトもこの時に絶滅しているようです。海のプランクトンでいえば、白亜紀の名前の由来にもなった有孔虫類(この炭酸カルシウムの殻の化石が白亜つまりチョークです)が絶滅しています。最近の研究では、この絶滅は中米のユカタン半島に直径10kmほどの隕石が衝突し、急速に環境が変化したことにより起こったと言われています。

 この白亜紀末の大量絶滅に生き残ったのが、恐竜の一部である鳥類と、恐竜が繁栄する中生代の前の古生代に繁栄していた単弓類から進化してきた哺乳類です。恐竜がいなくなった後を埋めるように勢力を伸ばしていきます。新生代の陸の主役は哺乳類と鳥類ということになります。哺乳類は中生代約2億年弱を恐竜の影でしぶとく生き残り、恐竜の絶滅とともに復活するという粘り腰生物ですね。なお、爬虫類はトカゲ(ヘビを含む)、ワニ、カメ、ムカシトカゲ以外はほぼ全滅しています。逆にこの4種類だけがよく生き残っているとも言えますね。

 生き残るもの、死に絶えるもの

 さて、子供のころからの疑問は、大量絶滅の時に生き残った生物と絶命した生物の差は何かということです。例えば、白亜紀末の大量絶滅で、

・ 海の大型トカゲ、モササウルスは絶滅したのに、なぜワニは生き残っているのか?
・ アンモナイトは絶滅したのに、なぜタコは生き残っているのか?
・ 恐竜はほぼ全て絶滅したのに、なぜ鳥類が生き残ったのか?

これは、どこに差があったのでしょうか。

もっとも強い者が生き残るのではなく、環境に適応したものが生き残る、つまり適者生存というのが自然の摂理と言われています。安定した環境で強く生き残れる生物種は、急激な環境変化が起こると、環境変化に追随できずに滅亡したのかもしれません。一方、安定した環境ではそれほど強くなくても、急激な環境変化に柔軟に対応できる生物種、おそらく大型ではなく、適切な場所への移動も可能で、常には大量のエネルギーを必要としないような生物というのは、より生き残りやすかったのかもしれません。もっとも、個別の生物が絶滅したり、しなかった理由はわかりません。従って、鳥類以外の恐竜が絶滅し、鳥類だけが生き残った理由はよくわかりません。

 IT環境が変わってくる今、デジタルフォレンジックスも変わっていく?

 さて、今IT環境の大きな変化がきています。過去には、専用コンピュータから汎用コンピュータ、大型汎用コンピュータからパーソナルコンピュータにその環境は大きく変わってきましたが、今起こっているのは、パーソナルコンピュータによる処理から、クラウド環境での処理という環境変化ではないでしょうか?パブリッククラウドが一般に認知され出したのは2006年頃だと言われています。それが、約15年を経てクラウド事業者の運用が安定し、またさまざまなサービスが提供されだし、ネットワーク回線が高速で安価にかつ日本においてはどのような場所からも利用できるようになり、急速に利用が進んできています。個人的には中小企業は最終的には自社サーバを持つことはなくなり、端末とクラウド環境だけになるだろうと思っています。大手企業でも、オンプレミスの利用は特殊な用途に限られるようになると思っています。そうなった時に、デジタルフォレンジックスをどのようにするべきかを事業者は意識しておく必要があると思います。自社サービスをクラウド化する際には、セキュリティもそうですが、フォレンジックスをどのようにするべきかをセットで考えておくべきでしょう。ことが起こる前に!

 環境変化に適したものが生き残る。ティラノサウルスとなるか、スズメとなるか。天変地異とは異なり人間が起こしている変化ですから予想ができますね。

【著作権は、丸山氏に属します】