第682号コラム:和田 則仁 理事(湘南慶育病院 外科 部長)
題:「自宅療養のデジタルフォレンジック」

国内で初の新型コロナウイルス感染例が確認されたのが昨年1月28日である。その後4月7日に最初の緊急事態が宣言され、4月11日には国内新規感染者数は第1波のピークの720人/日となった。初期には保健所により陽性者の接触者対応が取られ、入院または宿泊施設での隔離がおこなわれていた。それから約1年半が過ぎ、第5波を迎えた現在、8月20日には25,868人/日という驚異的な数の感染者が発生している。もはや収容能力をはるかに超えた感染者が日々発生し、その多くが自宅療養を余儀なくされている。8月末で10万人以上の感染者が自宅療養をしている。また医療の逼迫により、療養中に呼吸状態が悪化した人もすぐに入院できないため、本来であれば入院して行われるべき酸素吸入や抗体カクテル療法等の医療を提供する酸素ステーションが設置されている状況である。自宅療養中に死亡する事例が相次いでおり、正確な統計はないとされているが、首都圏の1都3県では8月1~29日、救急搬送後に死亡が確認されたケースやみとりを含め、少なくとも31人が死亡したとされる(2021年8月30日東京新聞)。

東京都では、保健所の依頼で自宅療養者フォローアップセンターが自宅療養をされている方の健康観察を行っている。食事の配食とともに、血中酸素飽和度(SpO2)を測定するパルスオキシメーターが配送され、LINEのチャットボットで1日2回(10時と16時)の健康観察に回答するという仕組みとなっている。当然手入力である。数多くの自宅療養者を見守る上では有効な方法の一つだと思われるが、懸念事項もある。まず入力された内容が妥当かどうかという点。質問事項は「食欲はありますか?」、「現在の体温」のような比較的単純なもので答えに窮することは少ないと思われるが、例えば呼吸困難となった状況で、正しく入力できるのかという懸念もある。重症感が伝わらないことも考えられる。テキストベースで取れる情報にも限りがあるだろう。また1日に2回でいいのか。睡眠中の急変に対応できるのかなど情報収集の間隔の問題もありそうである。やはりウェアラブルデバイスを利用したモニタリングの方がスマートと言えよう。既に事業化している製品も出ているようで、医療用のパルスオキシメーターも1万円ぐらいするので、大きなコストの増大なく導入可能であろう。モニタリングが必要な期間は1~2週間なので、必要な自宅療養者にうまく使いまわせば対応可能ではないだろうか。何より、持続的にモニタリング可能で、体調の急変にも迅速に対応可能である。体温、SpO2、心拍数など重症化の判定に必要な客観的データが取れる点は大きい。加速度センサーによる動きがなくなった場合なども検出できるので非常時のコミュニケーションにも有用であろう。GPSによる位置情報取得も療養者の行動制限違反の抑止に寄与できるであろう。いきなり全国に普及するのは無理としても、先進的な自治体の取り組みに期待したいところである。重症化例を解析することで、重症化の早期予測にも応用可能と考えられる。このようなビッグデータの価値は今更強調するまでもないであろう。プロスペクティブに必要なデータを収集する枠組み作りも求められるところである。さらには、ローカルあるいはクラウドに蓄積されたデータは、万一の事態に対して事後的な検証が可能となる点もデジタルフォレンジックの観点から意義深いと言えよう。

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