第735号コラム:和田 則仁 理事(湘南慶育病院 外科 部長)
題:「日本入国とMySOS」

 勤務先の病院では海外渡航は原則禁止となっています。国内の学会もWeb参加できる場合はWebで、となっています。たまたま7月と8月に、Web参加ができない国際学会で招待講演などがあり、コロナ後初となる海外出張をする機会がありました。7月は韓国ソウル3日間、8月はオーストリア・ウィーンの1週間でした。オーストリアは何の制限もなく普通に入国可能でした。一方、韓国は入国にビザが必要で、早朝から領事館に並ぶ必要があるなど取得するのが大変でした。現在は限時的無査証入国が可能となっているようです。またQ-CODEというアプリに、パスポート情報、滞在場所、電話番号、Eメール、ワクチン接種状況、出発前48時間以内のPCR陰性証明(現在は不要)を登録する必要がありました。登録後にアプリに表示されるQRコードを入国時に示すという運用です。ビザと陰性証明が面倒で、気軽に行けるところではないという印象を持ちました。さらに面倒なのは日本への帰国です。8月、日本は新規感染者数が世界一となっていたにも関わらず、水際対策として現地出発72時間以内のPCR陰性証明がないと、日本行の飛行機に乗れないという厳しいルールがあります。万一陽性になると帰国できないという恐ろしい事態です。学会に参加していた外科医は出発3日前のなるべく早い時間にPCR検査を受けて、帰国の確約を取るようにしていました。そのうち一人の先生は帰国後に陽性が判明して、もし帰国ギリギリに検査をしていたら陽性だったかもしれないと、胸をなでおろしていました(幸い軽症だったようです)。

 今回の欧州出張は、往路は羽田から、復路は成田にという経路でした。ANAのウィーン直行便がキャンセルとなったため慌てて取り直したフライトのため複雑な経路となってしまいました。当然のことながら成田空港の国際線の到着ロビーはガラガラでした。とはいっても、一度に100人単位の人が到着しますし、時間帯によっては到着便が相次ぐこともありますので、空港検疫は効率的に混乱しないように行う必要があります。スターアライアンスが利用する成田空港第1ターミナルは、第3サテライトに到着すると一旦出口方向に向かった後、Uターンして一番奥の第4サテライトに誘導され、そこのラウンジ等を利用した臨時の部屋で手続きが行われます。そこからまた出口に向かって逆向きに進むので、かなりの距離を歩かされます。また誘導するだけの人員も沢山いて、贅沢に人件費をかけているなと想像されます。おそらく混雑時を想定して経路を冗長化しているのだと思いますが、基本ガラガラなので、ちょっとイラッとします。飛行機の扉から出口まで1 kmぐらいは歩かされる感じです。

 肝心の入国時の検疫ですが、「ファストトラック」を利用することで、ほぼスルーパスで空港検疫を通過することができます。このファストトラックで重要な役割を果たすのがスマホアプリのMySOSです。MySOSは株式会社アルムが公開している「ご自身や家族の健康・医療記録を行い、救急時などのいざという時にスムーズな対応をサポートするアプリ」(アルムHPより)です。ほとんどの人は日本へ入国・帰国の目的で利用していると思いますが、もともとはPersonal Health Record(PHR)のアプリなんですね。また、よく見ると一次救命処置ガイドや、近くにあるAEDや医療施設を地図に表示する機能など、ちょっといい機能が盛り込まれています。しかし入国時にはこれら機能はまったく関係なく、アプリをインストールすると、入国用のボタンから入り、表示に従って、長すぎて読んでいられない利用規約に同意し、質問票に答え、誓約書に同意し、ワクチン接種証明書と、PCR陰性証明書のアップロードを行うというアプリです。インストール時は画面の背景が赤色なのですが、すべての手続きが済むと画面が緑色になります。この緑の画面を表示したスマホを握りしめていると、検疫をすっと通してくれます。最後に登録するのがPCR陰性証明ですが、これにはタイムリミットがあり、韓国から帰国する時、出発当日の朝にPCRの結果が届くことになっていて、いざ登録しようとしてみても、もうだめなんですね。すると画面は黄色で、その場合は空港検疫で黄色のアプリと紙の陰性証明を見せると通してくれるということになっています。なお、陰性証明ですが、検疫(厚生労働省)推奨書式があって、これを海外のPCR検査機関で記入してもらうということになっています。ちなみにこんな面倒くさいことをしているのは日本ぐらいなので、現地のPCR屋さんも慣れたもので、日本人が行くと、例の書式に書いて結果はメールで送るから、みたいな感じで話は早いです。なおウィーンの街中のPCRは89ユーロ(13,000円)取られました。ウィーンから帰国するときは早々と陰性証明を取ったのでしっかりと緑にしたMySOSを持って、到着便から降機した速足の先頭集団として検疫を通過し、出口に向かうことができました。ただしアルコールを買いすぎたため税関で自己申告で1000円ほどの関税を払う必要があり、ちょっと時間を要しましたが。

 さて、このMySOSですが、安心して帰国するために必須のアプリなのですが、1民間企業が公開しているアプリで、登録した情報の取り扱いや安全性はどうなのかなと、ちょっと心配になったりもします。無事に帰国できた瞬間にどうでもよくなりますが、気にはなります。無料のアプリで、利用者は1円も払う必要はありませんが、この会社もボランティアではないでしょうから、厚生労働省との関係がどうなっているのかとか、COIとかも気にはなります。ネットを検索してみると、帰国後に隔離が必要だった時期にも、このアプリによるGPSやテレビ電話機能で隔離対象者の行動が監視されていたようです。厚労行政との親和性が高そうです。便利な世の中なのか、恐ろしい世の中なのか良くわかりませんが、この方面に詳しい方がいらっしゃったらいろいろと教えて欲しいです。

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