米中の対立がますます深まる中、日本の自律性、不可欠性を確保するうえで経済安全保障戦略の策定は非常に重要です。米国では、2018年8月に施行された国防授権法2019で輸出管理改革法(ECRA)と外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)が規定され、それに呼応するように中国でも2021年6月に反外国制裁法、同年11月に個人情報保護法が施行されました。
 我が国でも2022年5月には経済安全保障推進法が成立し、①重要物資の安定的な供給の確保、②基幹インフラ役務の安定的な提供の確保、③先端的な重要技術の開発支援、④特許出願の非公開の4制度の創設が盛り込まれました。
 今後は米中を中心に法の域外適用の範囲が拡大されていくことは容易に想像され、日本も地政学的な観点から見ても避けては通れません。
 米中の覇権争いにより、企業は、米・中・欧州それぞれの規制に応じ、自社にとって最善の事業戦略を策定する必要に迫られています。その中で特にサプライチェーンにおける人権リスクが注目されていました。そういった観点では、経済安全保障は、ESG関連問題という見方が主流だったと思いますが、今は様相が変わってきました。
 これまで主要な輸出先であった、米国や欧州で、サプライチェーンのリスク開示が求められ、開示できないと輸出が行えないといった事態が発生し始めたのです。企業は自社のサプライチェーンのデューデリジェンスを行い、その結果を開示しなければならなくなりました。この事態は二つの示唆が含まれます。
 一つ目は、これまでESG観点の位置づけだったものから、BCP事業継続戦略の問題に変化してきたということです。このため管掌が法務コンプライアンス部門やサスティナビリティ推進室から、事業部へと広がり、さらにより効果的に管理するためにも、全体の計画・実行の指揮を経済安全保障室などの専任部門が担うという体制変更の必要性が生じてきました。
 二つ目は、これまでの対中国、対ロシア等の対応から転じて、同盟国への対応の重要性が増してきたことです。実質、日本企業は同盟国から苦しめられている状況になったと言っても過言ではない事態に至っています。
 このように欧米の法規制の中で日本企業が課徴金、取引停止措置の制裁を受けるなど、事業戦略に影響を与えるリスクは高まっている一方、欧米諸国は中国やロシアに対し強硬な姿勢を示し経済的なデカップリングを図りながらも、見えないところでは中国やロシアとの事業を継続しており、その狭間にある日本が各国の法規制、域外適用により競争力を失うことは極めて深刻な問題です。
 我が国は独自のインテリジェンス能力を向上させ、世界の現実をよく理解し、民主主義を追求している同盟国との関係は維持しつつも、自分たちの進むべき道は自分で決めることができる能力と見識(少なくとも同盟国と同等レベル)を持つべきだと考えます。

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