コラム第889号:「公正な司法におけるデジタル・フォレンジックスの役割」

889号コラム:丸山 満彦 監事(PwCコンサルティング合同会社 公認会計士 パートナー、情報セキュリティ大学院大学 客員教授)
題:公正な司法におけるデジタル・フォレンジックスの役割

冤罪事件について

冤罪事件について警視庁が「国家賠償請求訴訟判決を受けた 警察捜査の問題点と再発防止策について」という報告書を公表しました[1]。また、警察庁からは同報告書を受けて同日に「国家賠償請求訴訟判決を受けた警察庁外事課における対応の反省事項と 公安・外事部門の捜査における再発防止策について」という報告書を公表しました[2]。併せて警視庁の警視総監は記者会見を開いて謝罪しました[3]。また退職者を含む関係者19名を処分または処分相当にすると発表されています[4]。報告書等によると、今回の事象の最大の反省点として捜査指揮系統の機能不全が挙げられています。現場が違法な手続きによる捜査により、逮捕、起訴をしていく段階で、適切な監督ができていなかったということなのだろうと思います。その点を踏まえて再発防止策として、組織としての捜査指揮を適切かつ実効性があるものとするための体制を再構築し、それが十分に機能を発揮できるようにするということになっています。

コラム第888号:「改正刑事訴訟法によるデジタル時代の証拠収集と課題」

第888号コラム:北條 孝佳 理事(弁護士・NICT 招へい専門員)
題:改正刑事訴訟法によるデジタル時代の証拠収集と課題

1 改正刑事訴訟法
2025年5月16日、改正刑事訴訟法が成立、同月23日に公布された【注1】。本改正により、刑事手続のデジタル化を目的に各種の規定が整備されるが、そのうちの1つである「電磁的記録提供命令」は、現行の「記録命令付差押え」に代わる新たな捜査手法として位置づけられる。当該命令は、裁判所又は捜査機関によるデータの収集手段として、物理的な記録媒体の押収に限らず、電気通信回線(オンライン)を通じた提供を可能とする点で画期的であり、デジタル時代における証拠収集の円滑化に資するものである。しかし、現行の記録命令付差押えに対してはいくつかの問題が指摘されており、これらは新たな制度で解消されておらず、引き継がれることになる。
本コラムでは、捜査機関によるデータの証拠収集手続の問題点として、①対象データの特定が困難であること、②広範なデータが収集される可能性があること、③データ主体による不服申立てが困難となり得ること、④データの消去を義務づける仕組みがないこと、について解説する。