コラム第930号:「訴訟フォレンジックを通じて弁護士から得た視点」

第930号コラム:下垣内 太 理事(アイフォレンセ日本データ復旧研究所(株) 代表取締役)
題:訴訟フォレンジックを通じて弁護士から得た視点

今期より理事に就任致しました、アイフォレンセ日本データ復旧研究所(株)の下垣内太(しもがいと だい)です。どうぞよろしくお願い申し上げます。

今回のコラムでは自己紹介を兼ねて、民間のフォレンジック実務者が日常のなかで知ることのできた新たな視点について触れてみたいと思います。まず、私は企業・組織における不正や犯罪のデジタル証拠を探すために、パソコンやスマホのデジタル・フォレンジック調査に日々取り組んでいます。調査といっても解析だけではありません。関係者(当事者・弁護士)向けの説明資料の用意などのデスクワークもあります。

デジタル・フォレンジックといえばランサムウェア攻撃のようなサイバー事案の対処でも活用されています。そんななか私の主戦場はといえば、民事事件における訴訟フォレンジックです。会社の営業秘密が不正に持ち出された証拠探しであったり、未払い残業代の請求に対応するための情報収集が必要な場面でのフォレンジック調査のことです。タイミング的には、来たるべき裁判を見据えての実施もあれば、期日までに残された日数がわずかな状況で急いで調査スタートということもあります。事後対処のフォレンジックですので当たり前ではありますが、ほとんどの調査の始りは突然やってきます。もっとも私はデータ復旧技術者としてフォレンジックに関与し始めた経緯もありますので、突然の対処自体は特に新しいことではありません。それ以外にこの業務には、ある特色があります。それは「弁護士との出会いが多い」ということです。ちなみに何年か前に、相談者が選任した弁護士が偶然にも高校時代の同級生だったことがありました。会議で「久しぶり!」に続けてフォレンジックの話をしたわけですが、こんな珍しい再会もあるぐらい、この仕事を通じて日々初対面の弁護士の方々とお話する機会があります。

コラム第928号:「コロラド州AI規制法の改正と今後の米国AI規制の行方」

第928号コラム:尾崎 愛美 理事(筑波大学 ビジネスサイエンス系 准教授)
題:コロラド州AI規制法の改正と今後の米国AI規制の行方

I.はじめに―コロラド州AI規制法の改正
2026年5月、コロラド州は、2026年6月末日に施行予定であったConsumer Protections for Artificial Intelligence(「人工知能に対する消費者保護法」※1)を廃止し、新たにAutomated Decision-Making Technology(「自動意思決定技術法」※2)を制定した。2024年5月に成立した「人工知能に対する消費者保護法」は、全米で初となる包括的なAI規制法として注目が集まっていたが、成立当初から産業界をはじめとする利害関係者から批判が相次いだために当初の施行日が延長されるなど、見直しが進められていた。同法については、2026年4月に、司法省が、同法の条項が合衆国憲法第14修正の平等保護条項に違反するとしてxAIによって提起された訴訟に参加するといった事態にまで発展している※3。今般の「自動意思決定技術法」の成立により「人工知能に対する消費者保護法」は廃止されることになったところ、今後の米国のAI規制のあり方については、改めて考察する必要があると思われる。そこで、本コラムでは、「人工知能に対する消費者保護法」と「人工知能に対する消費者保護法」の内容を紹介しつつ、今後の米国のAI規制の行方について考えてみることとしたい。

コラム第927号:「もうラーメンを素手で食べない」

第925号コラム:小向 太郎 理事(中央大第927号コラム:廣澤 龍典 理事(IDF「若手活動」WG 主査/IDF理事)
題:「もうラーメンを素手で食べない」

各々の環境や興味関心によって細かい解釈は異なるでしょうが、私から見た2025年の生成AIは、本格的に使えるようになった(スタートした)という印象を受けました。もちろん機械学習や深層学習といったAIのコアとなる技術は何年も前から存在し、一定の力を見せつけていました。とはいえ、当時は力を発揮できる用途やこれらの技術を扱える人材が限られており、現在のようにAIが日常に溶け込んでいるというよりは、「ITの専門分野の一つ」という立ち位置でした。つまり、入力に対して、求めた通りの正しい出力を返させるには、一般の人では極めて難しかったと思います。
そこからAIは一気に進化を遂げ、今や私たちは「使い方」を意識する必要すらほとんどなくなりました。チャットベースで誰でも簡単に精度の高い回答が得られるようになり、イラストや動画ですら作成することができる時代が来ています。かつて画像生成AIが「ラーメンを素手で食べるアイドル」という尊厳破壊イラストを生み出していたのも今や懐かしい笑い話です。
とはいえ、「自分の担当業務ではなかなかAIを使う場面がない」、「わざわざ自分が使う必要があるのだろうか」と疑問を抱いている方もまだいらっしゃるのではないでしょうか。今回はそうした方に向けて、「比較的扱いやすく、まずはここから触ってほしい」と思えるAIサービスをご紹介します。本コラムをメールにて購読されている方には釈迦に説法かもしれませんが、周囲への普及活動のネタとしてどうぞ最後までお付き合いください。

コラム第926号:「Mythos級のAIモデルの登場とCSIRTの憂鬱 」

第926号コラム:小山 覚 理事(NTTドコモビジネス株式会社  情報セキュリティ部 部長)
題:「Mythos級のAIモデルの登場とCSIRTの憂鬱」

私は重要インフラ事業者のCSIRT組織の責任者をしている。いま世間を騒がせている「Claude Mythos Preview」やOpenAIの新型モデル「GPT-5.5」など、Mythos級のAIモデルとどう付き合うべきか、考えだすと憂鬱なのだが、5月12日時点の情報に基づき、個人的な想像をかなり含んだコラムを書かせていただいた。信憑性はAI以上に低い前提で読み捨て頂ければ幸いである。

●はじめに:転換点としてのMythos
2026年4月に発表された「Claude Mythos Preview」は、サイバーセキュリティ分野の転換点が訪れたことを、世界中のセキュリティ関係者に知らしめた。
このAIモデルは、ソフトウェアの構造を理解し、自律的に脆弱性を発見し、さらに攻撃コードを書いて、エクスプロイトを成立させる能力を持つとされる。そして従来、専門家が時間をかけて行ってきた脆弱性調査やデジタル・フォレンジックは、このAIによって制御不可能な状態まで加速されていくだろう。

しかしMythos級AIモデルの本質はその性能ではない。
このAIが攻撃と防御の双方に転用可能なデュアルユース技術であることが、国家を含めた関係者に構造的な変化を引き起こしつつある。Mythos級AIモデルが登場した今、問題は「脆弱性を発見できるか」ではない。「大量に発見され得る脆弱性に、どう向き合うか」これが新たな問題である。プラスとマイナスの「リスク」への対応、これが私の憂鬱の始まりである。