第101号コラム:佐々木 良一 理事(東京電機大学 未来科学部 情報メディア学科 教授)

題:「クラウドは第四のダウンサイジング?」

米国グーグルのCEO エリック・シュミット(Eric Schmidt)が2006年に最初に利用したといわれることばであるクラウドコンピューティング(Cloud Computing、以下、単にクラウドともいう)に対する関心が高まっている。

クラウドについてはいろいろな側面がある。種々のコンピューティングサービスを必要な時,必要な規模で安価(場合によっては無料)に使えるなどの利用者の立場からの見方はもちろんできる。また、グーグルやセールスフォースなどによる国際的囲い込み戦略としてのクラウドという側面もある。国際的囲い込み戦略という見方をすると、クラウドは第4のダウンサイジングではないかと思い始めた。

第一はご存知のように、コンピュータのダウンサイジングであり、1990年ごろ本格的にはじまった。IBMの価格戦略により高額を維持してきたメインフレームがクライアントサーバシステムへ移行し始めたのである。当時コンピュータメーカにいた私は、本当に信頼性が必要なシステムをメインフレーム以外で実現できるはずがないからメインフレームがなくなることはないという意見を何度も聞いた。確かにメインフレームは銀行の基幹系などで今でも残っている。しかし、メインフレームのマーケットは徐々に失われていき、残った部分も大幅に価格低下した。そしていろいろな分野でサーバやPCを中心とするコンピュータ化が進んでいった。

第二のダウンサイジングは、ソフト開発のダウンサイジングであるといってよいのだろう。1995年ごろからソフトのパッケージ化やオープンソース化、そして中国・インドなどでの開発の増加が原因でこの傾向が顕著化していった。これによって国内のソフト開発業者はマーケットを部分的に喪失するとともに、残った部分も価格低下を招いた。

第三のダウンサイジングはネットワークのそれだろう。通信の自由化やインターネットの利用拡大により、NTTのマーケットは失われていき、残った部分も価格低下を招いた。

今度はシステム開発のダウンサイジングだろう。クラウド化することにより、国内のSIerのマーケットは、確実に失われていき、残った部分も価格低下せざるを得なくなるだろう。そういう意味ではまさに第四のダウンサイジングである。

しかし最近、クラウドは実は第五のダウンサイジングではないかと思い始めた。すなわち、2006年ごろより注目され始めたWEB2.0こそが第四のダウンサイジングであったのではないかと思いいたったのだ。ここでは新聞や雑誌などにおいてプロによって提供されていたコンテンツが、その消費者によるブログなどへの大量の書き込みにより相対的価値を失っていった。これは、広告料の新聞雑誌からWEBへの移転という形で表れている。これも一種のダウンサイジングであるといってよいであろう。

以上、クラウドをダウンサイジングの流れの中で見てきた。セキュリティセントリックプライベートクラウドを開発することでマーケットを維持できるという考えもあるが利用者がクラウドに期待するものが低価格化である中で成功の確率はそう高くないだろう。しかし、コンピュータがダウンサイジングすることにより、多くの新しい利用形態が生まれてきたようにクラウド化することにより、やはり多くの魅力的な利用形態が生まれてくるのだろう。何が魅力的な利用形態であるかを考え対策をとっていくことが企業にとって大切なのではないだろうか。

さらにいえば,クラウドという与えられたコンセプトで時代を捉え対応を検討することも必要であるが,もっと先の時代を読み自らコンセプトを提案し,必要な研究は何かを考えていくことは研究者にとってより重要なのだろうと思う。

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