第398号コラム:守本 正宏 理事(株式会社UBIC 代表取締役社長)
題:「デジタル・フォレンジックを通して思う人間回帰の重要性」

デジタル・フォレンジックにおいては、法的な証拠能力を担保させるために最大限の努力をすることが非常に重要ですが、それにも増して重要な事の一つは、やはり証拠を見つけることです。
しかし、この証拠を見つけるという行為は人が頭の中で考えているより、はるかに難しいものです。なぜなら、見つけなければならない証拠そのものが一体どのデータなのかがわからないからです。膨大なデータの中からどれが証拠になるかを見極めることは、実は想像以上に難しいのです。

例えば、明確な犯罪である殺人においても、“殺した”あるいは“殺す”という記述が被疑者のメールや、あるいはSNSの文書の中に見つかったからといって、それだけでは本当に殺人という行為を行ったか、ただの冗談かを区別することは非常に困難です。

冗談の“殺す”と本気の“殺す”、あるいは、別の言葉で表している本気かつ実行をともなった“殺す”を判別しなければなりませんが、人間の行動は複雑で、ありとあらゆる場合が無数に存在するため、一つ一つを定義づけることはほぼ不可能です。

結局、最終的には人がその知識と経験を駆使して状況を見極め、犯罪の証拠かどうかの判断を下さなければ、事件の解決はできません。

そう考えると、デジタル・フォレンジックは、最終的な人の判断を効率的、かつ適切に行えるようなお手伝いをしていると言い換えることができるでしょう。

データを分析し、判断をするという活動は、もちろんリーガル分野だけではありません。テクノロジーの急速な進歩により、蓄積されたビッグデータを現実的に分析・活用できる時代となり、それは医療やマーケティング、あるいは営業や人事における業務改善などのさまざまな分野で活かされはじめています。

しかし、どの分野においても、分析の結果をどのように活用するかは、やはり人が最終的に判断することになります。要するに高度に発達した技術を駆使してビッグデータを解析したとしても、それをどのように活用するのかを決めるのは、結局我々人間だという事です。

テクノロジーで見出してきた結果に対し、個人もしくは複数の人の経験・知識、あるいは信念のようなものも含めてフル活用し、どのようにデータを分析し、活用していくかを考えることが重要なのです。

日本でデジタル・フォレンジック研究会が発足されたころは、デジタル・フォレンジックを犯罪者が活用すれば、犯罪を助けることになるのではないか?という懸念がよく話題になりました。また最近ではAIが人の仕事を奪い、人類を支配するのではないか?という懸念も出てきています。

実際にそうなるのかどうかの議論はさておき、ビッグデータの時代、AIを含んだハイテク技術が実用化された現代だからこそ、人の力をどのように加えていけるかが、重要であると考えています。人間の経験・知識に基づく、センスや勘のようなものがなければ、ビッグデータ・AI・ロボットを本当の意味で活用することはできない、つまり人間回帰こそが、これらの進歩を社会に役立てるためのなくてはならない要素ではないでしょうか。

我々が携わっているデジタル・フォレンジックを、疲れや判断ミス、気分や体調によるブレなど人間の弱点を克服し、さらに生かすべき能力を最大限生かす、重要なソリューションにしていきたいと考えます。

【著作権は、守本氏に属します】