第421号コラム:町村 泰貴 理事(北海道大学大学院 法学研究科 教授)
題:「GPS端末設置捜査をめぐる裁判例の現状」

いわゆるGPS端末を用いた捜査について、ここ2年ほどの間に裁判例がいくつか報じられ、一部はデータベースに公開もされている。このコラムでは、それらを簡単にではあるが、紹介することとしたい。
GPS端末を用いた捜査というのは、被疑者や、その他捜査の対象となる者の自動車に、GPS機能により位置情報を取得できる発信機を設置し、その所在場所や移動の経路などを記録することを言う。問題は、捜査の対象者の同意を得ることなく、むしろ知られることなく対象者の自動車に発信機を設置することが、対象者のプライバシーを過度に侵害することになるのではないかという点であり、そのような捜査手法が許されるとしても、少なくとも裁判所の令状を得て行うべきではないかという点にある。
アメリカでは、既に2012年1月23日のUnited States v. Jones, において、連邦最高裁が「GPS端末を被疑者の車に取り付けるのは、侵入に該当し、連邦憲法第4修正の下でのみ許される」と判示していた。要するに令状を得てのみ許されるというのである。

これに対して我が国の裁判例は、福岡地判平成26年3月5日においてGPS端末の無断設置を問題視する弁護側の主張に「傾聴すべき点がある」としつつも、被疑事件に関連性はないとしていた。その後も、大阪地決平成27年1月27日では「通常の張り込みや尾行と比較して、特にプライバシーの侵害の程度が大きくはない」と判断して、違法性はないとしていた。
これに対して大阪地判平成27年7月10日(平成25年(わ)5962号等)は、平成27年6月5日付け決定ではGPS捜査には令状主義の精神を没却するような重大な違法があるとして証拠から排除したが、そのことにより公訴提起が無効となったり、また情状面で考慮する事由とはならないとした。この事件の控訴審である大阪高判平成28年3月2日(平成27年(う)966号)では、証拠排除の決定に関しても、「一審証拠決定がその結論において言うように、このようなGPS捜査が、対象車両使用者のプライバシーを大きく侵害するものとして強制処分に当たり、無令状でこれを行った点において違法と解する余地がないわけではない」としつつも、「携帯電話機の基地局に係る将来の位置情報を取得する場合に、実務上検証許可状の発付が必要」とされている点をもとに令状主義違反と結論付けていることに関しては、「本件で警察官らが令状請求を行わなかったことをもって令状主義軽視の姿勢であるとまで評価するのは、やや無理があるように思われる。一審証拠決定が、そのような評価を経て、本件GPS捜査は令状主義の精神を没却するような重大な違法があるとするのは、必ずしも賛同できない」とする。証拠から排除することについてもネガティブな姿勢を見せたと評価できよう。

水戸地判平成28年3月25日(平成26年(わ)554号)でも、令状のないGPS捜査を重大な違法として証拠から排除したが、そのことを量刑上考慮すべきとの弁護人の主張に対しては、「本件GPS捜査の違法は、主として令状の発付を受けなかったという手続上の違法であって、そもそも被告人の行為責任には影響しない事情というべきである。仮に、被告人にのみ刑事責任を負わせることがおよそ不公平と言わざるを得ないような捜査側の看過しがたい不正義があり、被告人の具体的苦痛が著しいなど、違法収集証拠の排除にとどまらず、捜査の違法を量刑上考慮しなければ、正義や公平の観点に反することが明らかな例外的事情がある場合に、これを量刑上考慮する余地があるとしても、本件においては、そのような事情も見当たらず、本件GPS捜査により直接得られた証拠を排除することに加え、捜査の違法を量刑上考慮する必要がある事案とはいえない」とした。
さらに最近報じられた名古屋高判平成28年6月29日は、令状によらないGPSの設置は違法と評価しつつ、これにより得られた証拠の排除は認めなかった。ただし、「GPS捜査はプライバシー侵害の危険性が否定できず、新たな立法的措置も検討されるべきだ」としたという。

以上のように、無令状でのGPS端末の無断設置という捜査手法については、プライバシー侵害の危険を重く見て違法と判断し、これによって得られた証拠は排除するという裁判例もいくつか見られるが、違法収集証拠と認めないものでも、その問題性については認めているのが大勢と評価することができる。裁判例の評価の違いが事案の違いによるものではないかという見解も公表されているが、本コラムではその違いを確認することはできなかった。今後、GPS端末の利用形態の程度等に応じて、令状主義の適用を必要とする方向に進むことも考えられよう。

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