第627号コラム:丸山 満彦 監事(PwCコンサルティング合同会社 パートナー)
題:「若者のサイバー犯罪を無くしたい。。。」

今回は以前から私が気になっていることについて、皆様にも考えて頂きたいと思い、コラムにすることにしました。それは、若者によるサイバー犯罪についてです。

先日、Bill GatesやElon Muskなど著名人が被害者となったTwitterアカウント乗っ取り事件が米国でありました。マスコミも取り上げて大きな話題となりました。その犯人として起訴されたのが米連邦政府司法省の発表(※1)によると17歳、18歳、22歳の若者ということです。さらには17歳の少年が主犯格的な役割を担っていたように見えます。日本においても不正アクセス被疑者の年代別推移を見ると2014年から2019年の6年間の平均を見ると14−19歳、20-29歳がそれぞれ30%(※2)となっています。2018年の14-19歳の検挙者数が23,498人で全体206,094人の11%(※3)と比べると若年層の犯罪割合が多いようです。

   

図1: 不正アクセス被疑者数 年齢別推移     図2: 不正アクセス被疑者数 年齢別割合の推移

罪を犯してしまうと例え執行猶予がついても、また不起訴となったとしても報道される等によりその後の本人の人生を大きく変えることになります。特に人生がこれからという若い世代がこのような状況になればその影響は大きくなると思います。日本では未成年について少年法の特例があるものの実態的にはその後の人生に大きな影響を与えるという意味では変わらないように思います。

傷害や窃盗といったいわゆる昔話にも出てくるような罪については親ばかりでなく近所のおっちゃんやおばちゃんも小さな時から注意してくれるので、自然と犯罪意識というものが身につきます。また、人からされたら嫌だという気持ちも持てるので、自分がされたことを人にもしないという躾もしやすいと思います。

一方、サイバー犯罪は親や近所のおっちゃんやおばちゃんといった身近な人がサイバー犯罪に詳しくない、またそのような躾をするタイミングを持ちにくい、といった状況があるように思います。また、学校教育においても、多くの学校の先生の知識が不十分である、サイバーセキュリティ関連技術の内容が一般市民には容易ではない、生徒や学生の知識レベルのばらつきが多い等の問題もあり、サイバー犯罪について先生が指導することが難しいという課題もあると思います。自分自身や身近な人がサイバー犯罪を経験したり、その内容を聞くという機会も多くなく、サイバー犯罪についての実感を持つのが難しく、サイバー犯罪をしているという罪意識も少ないということがあるかもしれません。若者故に、自己顕示欲が現れすぎて犯罪をしてしまうという原因もあるかもしれません。私自身、若年が犯罪そのもの、さらにはサイバー犯罪を起こす背景の理解が不十分で、対応策を提言するほどの状況になっていません。私にとってのこれからの課題です。

私が運営に関わっている「コンピュータ犯罪に関する白浜シンポジウム」で第22回大会に当たる2018年に『若者とサイバー犯罪:被害者・加害者・傍観者』というテーマでこのあたりの議論はしました(※4)。しかし、状況は改善していないようにも思われ、このような議論を一過性で終わらせるのではなく継続的にできればと思っています。

※1 米連邦政府司法省 2020.07.31
 Three Individuals Charged for Alleged Roles in Twitter Hack

※2
令和元年警察白書及び不正アクセス行為の発生状況及びアクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況(令和2年3月5日)よりデータを作成

※3 令和元年警察白書
平成30年都道府県別統計資料

※4 第22回サイバー犯罪に関する白浜シンポジウム テーマ
『若者とサイバー犯罪:被害者・加害者・傍観者』