第755号コラム:和田 則仁 理事(湘南慶育病院 外科 部長)

題:「電子カルテのお作法

私が研修医の頃、大学病院のカルテは紙でした。汚い字で略語や俗語混じりの難解な表現をしていて、今から思えば、そのような環境でよくも診療が成り立っていたなと思います。レントゲンもフィルムをシャーカステンに掛けて読影しカルテにスケッチしていた時代で、見当たらなくなったフィルムをみんなで探すということがお約束のようにありました。かろうじて電子化されていたのは処方や検査オーダーなど一部のオーダリングで、Windows前から動いていたシステムで、ファンクションキーを駆使する代物でした。

それから30年を経て、ほとんどの病院でカルテの本文の記載が電子化されて、情報共有が進み、医療の質向上に大きく寄与したことは間違いないでしょう。コピペにより検査結果やレントゲン写真を張り付けることも容易になり、見やすいカルテを作ることもできるようになりました。そうなると、カルテは如何に書くべきかというテーマが登場します。

最も有名なのはSOAPです。といっても石鹸のことではなくて、Subjective(主観的情報)、Objective(客観的情報)、Assessment(評価)、Plan(計画)の頭文字を取ったものです。診療上の問題を4つのカテゴリーに整理して記載する方法です。例えばこのような記載になります。

S) 昨日から胃のあたりがしくしく痛むんです。便が黒くなりました。

O) 眼瞼結膜蒼白、心窩部に軽度圧痛あり。反跳痛・筋性防御なし。

A) 上部消化管出血が疑われる。消化性潰瘍、胃癌などが鑑別診断となる。

P) 採血で貧血を評価し、本日、緊急内視鏡を予定する。

実際はもっとボリュームがありますが、このような書き方になります。

もう一つのパターンがコピペ追記型の記録方法です。電子カルテの欠点のひとつに一覧性が悪い点があります。全体をパラパラと見ることができません。そこで、経過が長い、あるいは多くの問題を抱えた患者さんでは、疾患(問題)を列記して、疾患(問題)ごとに、過去の検査結果や治療歴の概要を時系列に書いていき、日々、コピペの文章の最後に新たな情報を追記していくという方法です。問題点を整理し、患者さんの状態を把握するには良い方法です。問題はコピペの繰り返しで同じ文章がカルテ内に大量に存在し、前回との差分がわかりにくいことが挙げられます。特に事後的にカルテを検証するときには骨が折れます。またチームで診療する際には、コピペの部分には誰が記載したかの情報はなく、信頼性の高い情報と低い情報が混在している可能性があります。

しかし、多くの病院でこの方法が採られているのは、日々の臨床を回す上で有用だからと言えます。そうなると、コピペの情報の信頼性を上げるにはコピペ情報にオリジナルデータのリンクが張られるような仕組みがあると良いのではないでしょうか。Wikipediaの説明文の注釈・出典のリンクのイメージです。ただし、そのような便利な機能が実装されたとしても、カルテ開示では電子カルテの情報をプリントアウトすることが前提のため、事後的なカルテの検証の際には大変なことになることは変わりないでしょう。レントゲン写真がDICOMで標準化されたように、電子カルテの出力も標準化されると多くのメリットが享受できるはずで、そのような機運が高まることを期待しています。

【著作権は、和田氏に属します】