770号コラム:植草 祐則 理事・事務局長(NTTデータ先端技術(株)サイバーセキュリティ事業本部 シニアスペシャリスト)
題:「事務局長就任のご挨拶

IDF会員の皆様、先日5月12日の総会にて事務局長を拝命しました植草と申します。
今回のコラムでは、ご挨拶を兼ねて今後事務局として目指したい方向などをご説明できればと思います。

まず植草の背景をご説明しますと、私は10年以上情報セキュリティに関するインシデント対応サービスの提供やCSIRTメンバーとしての活動をしていました。そこでは様々な技術や事件に関する情報を集め、何手か先に起きることを想定し、速やかなインシデント収束やインシデントの発生防止に役立てること、またそれらの情報収集や共有を行うための組織間の関係の構築という経験をしています。この経験から、IDFの発展のために今後どのような方向に進み「輪」を広げるべきなのか、その支援と実現をするために事務局組織はどうあるべきなのかを考えています。

例えば外部要因の一つとして、コロナ禍によってDXの入り口でもある「様々な作業や記録の電子化」が加速されました。また、オンラインやハイブリッドでのミーティングや作業も普通の事として認知が進んでいます。これによりデジタルデータとしての情報が増え、エントロピーの増大のごとくデジタル・フォレンジックの対象となるデータ量は増える一方です。もちろん対象となるデータは従前のものだけではなく、新たなフォーマットもありますし、ネットワーク上やクラウド上といった今までとは異なる環境からのデータの復旧や調査という挑戦が必要とされています。さらに、それを大量のデータに対して迅速に行うことが求められます。こちらにつきましては、一昨年のデジタル・フォレンジック・コミュニティにおいて「DX時代におけるデジタル・フォレンジック」として取り上げられておりますし、各分科会での取り組みや会員の皆様のデジタル・フォレンジック技術の活用という場面にも変化や影響を及ぼしていると思います。

一方、昨今ChatGPTなどで話題のAIについては、カービングや大量のデータ分析に機械学習やAIが活躍すると言った「利用する側の視点」だけではなく、AIの学習を汚染したりAI自体を攻撃された際の経緯を明らかにしたり、ブラックボックス化しやすいAIに対して「AIが内部的に何をしてその結論に至ったのか」を客観的に検証するなど、調査対象として見たデジタル・フォレンジックの活躍シーンも多くなると考えられます。この場合、調査対象となるAI自体に関する知見ももちろん必要となります。AIとセキュリティの関係については第531号の佐々木理事のコラム「AIとセキュリティ」に、わかりやすく解説されていますので是非ご一読ください。
https://digitalforensic.jp/2018/09/18/column531/

このような課題に立ち向かい、デジタル・フォレンジックを広めて行くためには今まで20年間の歴史で蓄積した技術や知見はもとより、調査対象やユースケースとなるであろう業界や組織をより多く巻き込み、異なる視点や新たな知見を持った人を仲間にして会を拡大する事が必要です。事務局としても会員の皆様、役員の皆様の知見をお借りしつつ、デジタル・フォレンジックの新たな領域への普及活動を支援して行く所存です。

また研究会を運営する事務局として、会員の皆様には情報や成果のご提供はもとより、より活動がしやすくなる・成果が出しやすくなる環境をご提供することが責務です。このため、20期で計画されているWebサイトのリニューアル以外にも、常に成果を広めるための方法を模索し、分科会の活動などで皆様の共創の支援になるような仕組みを考え、提供したいと考えています。

幸いなことに19期までに丸谷前事務局長の尽力で独立した事務局を構え、研究会として安定して持続可能な状態にすることができています。
これを礎とし、20期からは周囲の変化を先取りして当会で必要なものはより機動的に変化させるといった対応を進めて行きます。

最後になりますが、事務局長としては新米で不慣れなところも多々あるかと思います。
皆様のご指導ご鞭撻を頂きつつ上記の目標に向けて業務を進めて参りますので、どうぞよろしくお願いいたします。

【著作権は、植草氏に属します】