第783号コラム:尾崎 愛美 氏(筑波大学 法科大学院 准教授、「法務・監査」分科会 主査)
題:「SNSと捜査

1.アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件
 2021年1月6日に米連邦議会議事堂で発生した暴動では、襲撃した人物の特定にSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)が活用された。翌7日、FBIは、Twitter(現X)やFacebookにおいて、襲撃した人物を特定する手がかりとなるような情報や映像の提供を呼びかけた他、襲撃者らが自ら投稿した記事や動画の分析も行った。この結果、同月12日には、米司法省により本件に対する犯罪捜査が開始され、150人以上が逮捕されるに至った。
 暴動発生から約3か月後、米Yahoo Newsは、米国郵政公社(USPS)が米国人のSNSへの投稿を監視するプログラムを運営しているとの報道を行った。米Yahoo Newsが入手した文書によると、この監視プログラムは、暴動に関与していたとされるプラウド・ボーイズのメンバーの他、コロナウィルス規制に抗議するデモ参加者といった様々な集団による扇動的な投稿を洗い出すことを目的として実施されていたようである。ニューヨーク大学ブレナン司法センターのレイチェル・レヴィンソン・ウォルドマンは、「郵便制度とは無関係なSNS監視を、何故、郵政公社の職務権限に含めるのか明確ではなく、投稿者が単に合法的に保護された言論活動を行っているのであれば、たとえそれらが悪質であったり不快であったとしても、悪質性や不快さを理由に投稿者を監視することは憲法上の重大な問題を提起することになる」と指摘している。

2.ミネアポリス市警察の事例
 また、2022年4月には、ミネソタ州人権局により、ミネアポリス市警察が、犯罪の疑いのない有色人種の組織や個人を、SNSを用いて監視していることが報告された。ミネソタ州人権局の報告書によれば、「ミネアポリス市警察当局は、公共の安全という目的なしに、隠密あるいはフェイクのソーシャルメディア・アカウントを使用して、黒人の個人、黒人の組織、犯罪活動に無関係の選出当局者を監視し」、「同市警察の隠れアカウントを使用してコミュニティのメンバーを装い、選出当局者を非難する個人間メッセージを送った」とされるが、「同市警察には、「隠れアカウントが合法的な捜査目的に限って使われるようにする」ための指針」がなかったことが指摘されている。同市及び同市警察に対しては、公民権法違反の疑いがあるとして、米司法省が捜査に着手している。

3.SNS捜査の種類
 ウォルドマンは、SNS捜査について、4つの種類に分類している。第一は、公開されているSNSのアカウントや投稿を検索し、ユーザーの最近の投稿や他のユーザーとのやり取りをチェックするという方法である。第二は、覆面アカウントを作成して、対象となるユーザーを監視し、場合によってはやり取りをする方法である(上述したミネアポリス市警察の事例がこれに該当する)。第三は、サードパーティのソフトウェア開発企業から監視プログラムを購入し、ソーシャルネットワークの相関図、注目度の高いハッシュタグの使用者、位置情報といった、プラットフォーム上で利用可能なデータをマイニングするという手法である(なお、2016年に大手SNSがポリシーを変更した結果、監視目的でのデータの使用は禁止されることとなった)。第四は、令状を通じて特定のユーザーに関するデータを入手する方法である。

4.近時の裁判例―Chavez判決
 このように、近時の米国の法執行機関においては、SNSが重要な情報源となっている一方で、SNSを用いた捜査については、表現の自由に対する侵害や公民権法違反の可能性が指摘されている。2023年8月現在、SNS捜査を直接規制する法律は見受けられないものの、電子捜索令状(electronic search warrant)に基づいて被告人のSNSアカウントから入手した証拠の排除をめぐって争われた事案が存在することから(United States v. Chavez, 423 F. Supp. 3d 194, 205 (W.D.N.C. 2019). 以下「Chavez」判決という。)、同判決の概要について紹介することとしたい。
 本件は、国際的な詐欺事件の捜査の過程で浮上した被疑者が別の被疑者とFacebookを通じてやり取りを行っていたことから、捜査機関はFacebook社(現Meta社)に対して、被疑者に関する以下のデータの提供を求め、得られたデータを証拠としたところ、被告から証拠解除の申立てがなされた事案である(なお本件は、前述の分類によれば第四の枠組みに該当する)。

(a)フルネーム、ユーザー識別番号、生年月日、性別、連絡先メールアドレス、パスワード、セキュリティ質問と回答、住所、電話番号、ユーザー名、ウェブサイト、その他全ての連絡先および個人識別情報(b)アカウントの全てのアクティビティログ、投稿、その他のFacebookアクティビティ
(c)ユーザーIDがアップロードした全ての写真および動画、ならびにそのユーザーがタグ付けされた全てのユーザーによってアップロードされた全ての写真および動画
(d)全てのプロフィール情報、ニュースフィード情報、ステータスの更新、動画へのリンク、写真、記事、その他のアイテム、メモ、ウォールの投稿、友人リスト、ユーザーがメンバーであるグループおよびネットワーク、将来および過去のイベント投稿、拒否された「友達」リクエスト、コメント、ギフト、ポーク(挨拶)、タグ、およびユーザーのFacebookアプリケーションへのアクセスおよび使用に関する情報
(e)プライベートメッセージ、チャット履歴、ビデオ通話履歴、保留中の「友達」申請など、ユーザーが送受信したその他全ての通信およびメッセージの記録
(f)全ての「チェックイン」およびその他の位置情報
(g)アカウントにログインしたIPアドレスに関する全ての記録
(h)「いいね!」を押した全てのFacebook投稿、Facebook以外の全てのウェブページおよびコンテンツを含む、「いいね!」機能の使用に関する全ての記録
(i)アカウントが「ファン」である、または「ファン」であったFacebookページに関する全ての情報
(j)アカウントが作成した過去および現在の全ての友達リスト
(k)アカウントによって実行されたFacebook検索の全ての記録
(l)ユーザーのFacebookマーケットプレイスへのアクセスおよび利用に関する全ての情報
(m) ユーザーが利用したサービスの種類
(n)サービスの期間およびサービスに関連する支払いの手段
(o)全てのプライバシー設定およびその他のアカウント設定、ならびにどのFacebookユーザーがアカウントによってブロックされたかを示す全ての記録
(p)ユーザーまたはユーザーのFacebookアカウントに関するFacebookと個人との間のコミュニケーションに関する全ての記録

 裁判所は、「人間は一生の間に、程度の差こそあれ、無数の社会的絆を形成する。個人情報を他者に打ち明けるという決断そのものが、親しみを友情へと発展させる。第4修正は、そのような親密な関係を構築する個人の権利を保護するものであり、そのような関係を政府が監視することはない」と指摘した上で、公開に制限を設けたコンテンツに対するプライバシーの正当な期待は第4修正によって保護されるとした。ただし、本件においては、被告が国際的な詐欺事件に関与しており、捜査機関が被告のFacebookアカウントに詐欺のスキームに関する証拠が含まれていると信じる正当な理由があったことから、本件令状に示された範囲が過度に広範であったとしながらも、令状に客観的に不合理といえるほどの欠陥はなかったとして、証拠排除は認められないと判示した。

5.まとめ
 SNS捜査の内、覆面アカウントの使用については、米国においては公民権法違反の指摘があり、監視プログラムを使用したマイニングについてはプラットフォーム企業のポリシー変更により禁止されるに至っている。また、令状を通じたユーザーのデータの入手については、米国の裁判例においても、令状の特定性について問題があったことが指摘されているところ、今後の同捜査の過程においては、入手すべきデータの範囲を慎重に決定していくべきであると考える。
 なお、翻って日本では、2021年、警察庁が、被疑者のSNSを、AIを用いて解析し、人物相関図を作成するシステムの導入を決定したとの報道がなされている。取材を受けた警察庁幹部のコメントによれば、「インターネット上で公開状態のデータのみを解析し、非公開の情報が必要と判断した場合は令状を取得して別途捜査」し、「システム使用は犯罪関連に限定され無関係な情報は調べない」とされる。かかるSNS捜査は、前掲した手法の内、「公開されているSNSのアカウントや投稿を検索し、ユーザーの最近の投稿や他のユーザーとのやり取りをチェックするという方法」に類似するものと思われるところ、現時点においては、法的な問題に発展する可能性は低いようにも思われる。他方、覆面アカウント使用等、米国においても問題点が指摘されているようなSNS捜査の導入にあたっては、より厳格な運用が求められよう。

【参考文献】
Jana Winter, The Postal Service is running a ‘covert operations program’ that monitors Americans’ social media posts, April 22, 2021, Yahoo News.
https://news.yahoo.com/the-postal-service-is-running-a-running-a-covert-operations-program-that-monitors-americans-social-media-posts-160022919.html

The Minnesota Department of Human Rights, Investigation into the City of Minneapolis and the Minneapolis Police Department, April 27, 2022.
https://mn.gov/mdhr/assets/Investigation%20into%20the%20City%20of%20Minneapolis%20and%20the%20Minneapolis%20Police%20Department_tcm1061-526417.pdf

Sam Richards, Minneapolis police used fake social media profiles to surveil Black people, April 27, 2022, MIT Technology Review.
https://www.technologyreview.com/2022/04/27/1051517/minneapolis-police-racial-bias-fake-social-media-profiles-surveillance/

(日本語記事)
https://www.technologyreview.jp/s/274753/minneapolis-police-used-fake-social-media-profiles-to-surveil-black-people/

Rachel Levinson-Waldman, Private Eyes, They’re Watching You: Law Enforcement’s Monitoring of Social Media, 71 OKLA. L. REV. 997 (2019).

日本経済新聞電子版「SNS解析システム導入へ AI捜査で人物相関図作成」(2021年5月30日)。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE292FH0Z20C21A5000000/

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