第797号コラム:手塚 悟 理事(慶應義塾大学 環境情報学部 教授)
題:「慶應義塾大学開催の第13回サイバーセキュリティ国際シンポジウム『多国間の産官学連携による国家安全保障、経済安全保障、社会保障』について」 

慶應義塾大学は2015年8月に、全塾研究センターとして「サイバーセキュリティ研究センター」を設立しました。その記念行事として2016年2月に開催したサイバーセキュリティ国際シンポジウムを皮切りに、毎年シンポジウムを行ってきました。今年も10月に「慶應義塾大学サイバーセキュリティ研究センター行事『第13回サイバーセキュリティ国際シンポジウム』を開催しましたので、これについてご紹介します。

2020年、2021年のシンポジウムはコロナ禍での開催であったことから、オンライン会議で開催いたしましたが、昨年のシンポジウムは、3年ぶりに慶應義塾大学三田キャンパスにて対面での開催を実施いたしました。今年も、昨年に続いて、対面でのシンポジウムを開催することができました。

世界のサイバーセキュリティに関する大学連携組織であるInterNational Cyber Security Center of Excellence (INCS-CoE)と、米国の非営利団体であるMITREが共同開催者となり、規模も今まで以上に大きくして、昨年までの2日間にわたる開催を3日間に拡大していたしました。拡大した理由としては、昨今の国際情勢を見ますと、ウクライナ問題、台湾問題、さらにはパレスチナ問題と、我が国がいつこれらの問題に巻き込まれて、我が国の領土、国民が被害にあうかも分からず、予断を許さない状況になってきたことにあります。この背景もあって、登録者が約800人、参加者も述べ約500人に上り、今までにない盛況ぶりでした。

今年のテーマは、「多国間の産官学連携による国家安全保障、経済安全保障、社会保障」としました。 それは、サイバーセキュリティがあらゆる安全保障に不可欠な要素となりつつあるからです。そこで、 本シンポジウムの目的は電力、通信、輸送、金融、医療などの重要なインフラを含むライフラインを保護するために、サイバーセキュリティに関する包括的な行動を実践することであると考えました。シンポジウムでは、G7、G20などの国や地域のサイバーセュリティの相違やギャップを検証し、そのギャップに対処し、信頼できる多国間パートナーシップを構築するための実践的な行動を創出することが極めて重要であると認識しました。

国家安全保障では、ウクライナでのハイブリッド型の戦いと、それを教訓とした台湾問題の可能性の検証をしました。 Five Eyes、AUKUS、Quad、NATOなどの二国間・多国間組織がこうした国家安全保障上の懸念に取り組んでいます。 国家安全保障戦略については、積極的な防衛が議論されました。

経済的安全保障では、国家安全保障では政府が主役であるのに対し、民間が主役であることが最も重要であると認識しました。現在、民間企業は、レジリエントでかつセキュアな重要インフラ整備が重要であるとのことから、グローバルセキュアサプライチェーンやセキュリティ・クリアランスのテーマをしっかりと対応していく必要があるとの議論が出ました。

社会保障では、国際的な国境を越えたデータ流通は極めて重要なテーマであることから、G7デジタル閣僚会議で強調された「Data Free Flow with Trust(DFFT)」を達成するためには、国際的相互認証(International Mutual Recognition)が最重要課題であるとのことを議論をしました。今年のG7でInstitute Agreement for Partnership(IAP)を創設することになりましたが、このIAPで国際的相互認証(International Mutual Recognition)を検討テーマとすることを、現在検討しています。

デジタルの世界では、物理的、技術的な境界は存在しません。国家安全保障、経済安全保障、社会保障を含むすべての領域は、デジタル技術に依存しているのが現実です。したがって、経済、食糧供給、金融、エネルギー、通信、輸送などの分野における脆弱性に関して、サイバーセキュリティ技術がすべての領域に関係しています。デジタル・トラストは、すべてのセキュリティ領域において、安心、安全、レジリエントなデジタル環境を構築するために極めて重要な基盤となります。

そこで、今回のシンポジウムでは、政府、産業界、アカデミアが一体となった国際的なマルチステークホルダー・アクションに向けた議論を展開しました。 SDGs(持続可能な開発目標)やGX(グリーントランスフォーメーション)の一環として、カーボンニュートラル、国際資金移動、eIDAS(電子認証・トラストサービス)、5G/6G、AI、IoTイノベーションなどをテーマとしました。

基調講演、パネルディスカッション、専門セッションを行い、INCS-CoEパートナーが共有する国際共同研究、政策、教育項目について、日本、米国、英国、EU、オーストラリア、イスラエル、フランスとの国・地域の、デジタルトラストにおける国際相互連携の実現方法を活発に議論いたしました。

開催日は、2023年10月25日(水)~27日(金)の3日間でした。プログラムの詳細については下記URLをご覧ください。
https://symp.cysec-lab.keio.ac.jp/2023oct/index-j.html

ウクライナ問題、台湾問題、パレスチナ問題のリスクが高まる中、今回のシンポジウムは地政学的な世界情勢をタイムリーにとらえた大変貴重なシンポジウムになったと思います。サイバーセキュリティは、その中心的な存在として益々必要不可欠なものとなってきています。今回のテーマである「多国間の産官学連携による国家安全保障、経済安全保障、社会保障」を改めて考える良い機会となりました。

【著作権は、手塚氏に属します】