第519号コラム:町村 泰貴 理事(成城大学 法学部 教授)
題:「民事司法のIT化、検討会の取りまとめを見て」

1.はじめに

このコラムの前回前々回の担当部分では、「未来投資戦略2017」から始まった司法IT化の議論を取り上げてきた。

このテーマに関する検討は日本経済再生本部の下での「裁判手続等のIT化検討会」において進められ、本年3月30日には「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ」が公表されている。

これによると、まず現行法の下で可能な電話会議にウェブ会議を加えるなどして効果的・効率的な争点整理を試行・運用することがフェーズ1とされ、2019年度(つまり来年度!)からの実施を期待するとしている。ということは予算的には今年度の概算要求に織り込むこととなる。

またフェーズ2として当事者の出頭を要しない口頭弁論や弁論準備期日などについて、法改正の上で実現することが、2022年度頃に期待され、そのためには2019年度中の法制審諮問を視野に入れて準備を進めることが望まれるとある。さらにフェーズ3も、オンライン申立てへの移行を行い、e提出とe事件管理が実現するというもので、法改正とともにシステム整備や本人訴訟のサポート、広報・周知などが必要とされ、実施時期は明記されていないものの、やはり2019年度中の法制審諮問を視野に入れて準備を進めることが望まれるとある。

このように既に来年には一部先行実施とともに法改正の作業が具体的に始まるということのようだ。

2.フェーズ1の可能性

さしあたり、フェーズ1においては、現行法の下で、「IT機器の整備や試行等の環境整備により実現可能となるもの」を速やかに実現するように、電話会議に加えてウェブ会議等のITツールを積極的に利用し、より効率的な争点整理を試行運用するということである。

ここでいうウェブ会議等というのは、イメージされているのはいわゆるスカイプのような、ピア・ツー・ピアかどうかは別として、インターネットを通じた音声画像のリアルタイム送受信によって、しかも多元的に、コミュニケーションを可能にするソフトの利用ということであろう。民事訴訟法170条3項は、以下のように定めている。

「裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、弁論準備手続の期日における手続を行うことができる。ただし、当事者の一方がその期日に出頭した場合に限る。」

また民事訴訟規則88条2項および3項は、以下のような規定である。

「2 裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって弁論準備手続の
期日における手続を行うときは、裁判所又は受命裁判官は、通話者及び通話先の場所の確認をしなければならない。
3 前項の手続を行ったときは、その旨及び通話先の電話番号を弁論準備手続の調書に記載しなければならない。この場合においては、通話先の電話番号に加えてその場所を記載することができる。」

これらの規定に対して、証人尋問について電子コミュニケーション手段の利用を認めた民訴法204条は、「映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法」と規定しているので、明らかにテレビ会議システムを指しており、逆に弁論準備手続に関する民訴法170条3項は反対に映像の送受信を含まない方法、すなわち電話会議システムの利用を指していると解される。

しかしながら、この規定ぶりをもって、弁論準備手続においてテレビ会議システムを利用することが禁止されていると解する必要はない。テレビ会議システムには、当然に、「音声の送受信により同時に通話をする」機能は含まれているのであるから、電話会議だけのシステムであれ、テレビ会議システムであれ、法文の要件は満たすことになる。ただし、あくまで電話による参加を想定しているので、民訴規則88条2項のような「通話者及び通話先の場所の確認」とか、電話番号の調書記載のような、ウェブ会議システムとは必ずしもそぐわない規定の存在があるが、ウェブ会議システムであっても通話者と場所とを確認する必要はあるし、ウェブ会議システムの場合に電話番号に相当する符号を調書に記載すれば、記録としての役割は同様に果たすので、差し障りとはならない。

これに対して民訴法170条3項の「ただし、当事者の一方がその期日に出頭した場合に限る」との規定は、幅広く可能性を探る試行には邪魔な制約である。裁判所が中心となり、両当事者ともウェブ会議により参加することも、「試行」として行うことが望まれるが、その場合に170条3項ただし書きはどう解すべきか。私見は、当該規定も責問権の放棄が可能な規定であるので、予め両当事者が合意すれば、両当事者ともウェブ会議により弁論準備手続に参加することも認められると解したい。

以上の他、電話会議システムの利用を予定した規定は、専門委員の関与に関する民訴法92条の3、書面による準備手続に関する176条3項、鑑定人質問に関する215条の2、少額訴訟における証人尋問に関する372条3項がある。これらの規定の活性化も、同時に試行されるべきである。

なお、目立たないが、弁論準備手続における電話会議のみならず、裁判所内部において現在用いられているという事件管理システムも、これは法律で定められているものでもなければ禁止されているものでもない。フェーズ1の中で、e事件管理の実現も見据えたシステムの改良をはかり、まずは裁判官、書記官、事務官の間での情報共有の仕組みとルールを構築する必要がある。その際、特に裁判官については裁判所外の、例えば自宅からもアクセス可能なシステムとすることが望ましい。

3.フェーズ1で検証されるべき事項

ウェブ会議の試行にせよ、事件管理システムの改良にせよ、フェーズ1としての試行は将来の立法の準備という意味を持つ。いずれも問題点を洗い出して、必要なルールは法律・規則にて整備し、またシステムの条件としてまとめていく必要がある。

例えば、上述した裁判所内部での情報共有・管理システムの構築と、裁判所外からのアクセスを認める中では、裁判所外の関係者との共有のあり方、ID管理やセキュリティ確保などの課題と仕組みをフェーズ1の間に固めていくことが出来よう。このことは、フェーズ2、3のための立法準備でもある。

またウェブ会議の利用についても、口頭弁論期日や人証調べでの幅広い利用のためには、弁論準備手続を舞台とした試行が役に立つ。口頭弁論となれば公開が必要となり、ウェブ会議利用の一つのネックとされているが、弁論準備手続も関係者公開であり、場合により相当と認めるものの傍聴も許すのであるから、ウェブ会議を利用した期日における公開性の確保を実験してみることも法律上は可能である。そうした実験により、口頭弁論でのウェブ会議の利用をどのような形で公開するのか、一定の方向性を見出すことができそうである。

この他、カメラを介したコミュニケーションの歪みや制約、裁判所以外の場所で映像・音声の送受信を行う場合の立会者の管理方法、当事者や第三者による録音録画への対策など、法的な問題も多数残されており、これらを試行の中で解決していく必要がある。加えて、そもそも通信の技術面に関する機密性、安定性なども、重要な課題である。この点では、フォレンジック技術の専門家集団に期待するところも大きいのではないだろうか?

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