第524号コラム:湯淺 墾道 理事
(情報セキュリティ大学院大学 学長補佐、情報セキュリティ研究科 教授)

題:「電子投票ふたたび(?) その2」

平成30年4月、青森県の六戸町が電子投票の休止を決定した。

六戸町は全国の地方公共団体の中で電子投票を実施してきた最後の団体であったため、六戸町の休止により、電子投票を実施する団体は存在しなくなり、第153回国会で成立し平成13年12月7日に公布、平成14年2月1日から施行された地方公共団体の議会の議員及び長の選挙に係る電磁的記録式投票機を用いて行う投票方法等の特例に関する法律(電磁記録投票法)により地方選挙に導入された電子投票は、約15年で頓挫した形となった。これまでの電子投票の実施例については、総務省のウェブサイトに一覧表が掲載されている。
http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/touhyou/denjiteki/denjiteki03.html

しかし、電子投票は頓挫した形となったものの、復活の可能性も残されている。特に法的な観点からは、電磁記録投票法が廃止されたわけでないので、依然として各地方公共団体は条例を定めることにより地方選挙であれば電子投票を再導入することは可能である。

もっとも、再導入するといっても、電子投票機器が存在しなければ、実際問題として電子投票を実施することはできない。今回の六戸町の休止の理由は、電子投票機器をリースで供給してきたベンダーである電子投票普及協業組合が新規の機器供給をとりやめたことにあった。もともと電子投票は、電子投票機等の機材類が高額であることが普及に向けた障壁となってきたが、普及が広がらないために市場が拡大せず、市場が拡大しないので機器類が高額となるという問題があり、このコスト面での悪循環をついに断ち切ることができなかった。ベンダーが新規の機器供給をとりやめた背景には、15年以上前に設計した機器類の部品調達が難しくなり、かといってこれから新規に製品開発を行ったとしてその費用を回収するめどが立たないという事情があったようである。

しかし、初めて電子投票が導入された約15年前と今日では、電子投票を取り巻く環境が大幅に変化している。特にハードウェアについては、技術的深化と機器類の低廉化が著しい。このため、筆者も委員を務めている総務省の投票環境の向上方策等に関する研究会においては、電子投票の改善による再導入の可能性が検討されており、平成30年7月3日開催の第7回研究会では電子投票に関する各種資料が配布された。
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/touhyoukankyou_koujyou/124568.html

研究会における検討結果については、秋頃をめどとして公表される報告書の中で触れられることになると思われる。

他方で、韓国では新たな電子投票の導入に向けた動きが始まっている。

韓国では今年度、ブロックチェーンクラウドを基盤としたオンライン投票システムの実証実験が行われる。韓国インターネット振興院(Korea Internet&Security Agency、略称KISA)は、ブロックチェーン技術の行政における利用の可能性を探るため、各行政機関に対してブロックチェーン技術を利用する事業についての提案を募集した。これに対して中央選挙管理委員会が応募したのがオンライン投票システムへのブロックチェーン技術の利用であり、中央選挙管理委員会の提案はKISAに採択されて実施されることとなったものである。

この実証実験の目的は、ブロックチェーン技術の概念に対する検証および電子投票適用の可能性の実証と、ブロックチェーンを基盤とした電子投票に対する技術拡散および内面化を図ることとされており、ブロックチェーンを基盤としたオンライン投票システムにより実証対象機関の投票を実施して、本人認証、投開票、票の検証にいたるまでのシステムが円滑に稼働するかを確認することとされている。実証対象機関には、韓国金融投資協会と仁川外国語高等学校が予定されており、株主総会の電子投票や、高校の生徒会役員選挙などで実証実験を行うことが計画されているようである。また、PC、スマートフォン、タブレットなど多様な機器で投票できるようにするシステムを構築する予定であるという。

ブロックチェーン技術が用いられるのは有権者認証と投票方向の管理であり、それぞれブロックチェーンに記録して管理することになる。また有権者情報と投票方向は、それぞれ異なるブロックチェーンに記録し、有権者情報と投票方向との間のコネクトリンクを遮断することによって、投票の秘密を確保する。開票終了後、検証段階において選挙管理関係者にノードへのアクセス権限および開票結果検証権限を付与することで、投票の真正性を確認するという。

ブロックチェーン技術の利用は、わが国では仮想通貨ばかりが注目されるきらいがあるが、保険、医療、貿易など多くの領域での利用可能性を秘めている。トレーサビリティや改ざんの困難性などのブロックチェーン技術の特性は、電子投票やインターネット投票にはきわめて適合的であり、次世代の電子投票やインターネット投票において採用される可能性がある。またオンラインでの本人確認はインターネット投票のみならず、オンラインによる行政手続全般の課題でもあるが、韓国の実証実験では有権者認証にもブロックチェーン技術が利用される予定であり、どのようにブロックチェーン技術により本人確認を行うのかはきわめて興味深いところである。韓国のブロックチェーンを利用した実証実験の結果が注目される。

【著作権は、湯淺氏に属します】