第500号コラム:伊藤 一泰 理事(栗林運輸株式会社 監査役)
題:「入院して思ったこと」

恥ずかしい話であるが、先日、酔っ払って転倒し、救急車で病院に搬送された。そして、そのまま入院することになってしまった。今回は、入院中に執筆しているので、情報不足や確認が不十分な点があるかもしれない。もし、関係各位に失礼な点があれば、ご容赦いただきたい。

【事故の顛末】
事の発端は、1月10日に遡る。その日の夕方、私の出身母体(日本政策投資銀行)のOB会新年会が大手町であった。そのあと、私達1976年入行の同期が集まり、二次会を開催した。気のおけない仲間との飲み会なので、ついつい飲み過ぎてしまった。

夜9時過ぎには、二次会もお開きとなり、家路についた。本来、私の帰宅経路は、大手町から丸ノ内線に乗り、霞が関で日比谷線に乗り換えて、六本木に至るコースだ。だが、酔っぱらっていたため、間違って半蔵門線に乗ってしまったようだ。気づいたのは、二子玉川(駅の記憶は曖昧だが)に着いたときだ。あわてて、反対側の渋谷方面行きのホームに向かおうとした。このとき、上り階段で足を滑らせて転倒してしまった。しかも、右手にスマホ、左手にカバンを持っていたため、手で防御できないまま、顔面から階段の角面に落下してしまった。歯が折れ、唇が切れて出血、目の見え方も何かおかしい。一方、右手に持っていたスマホは、キズひとつなかった。顔を犠牲にしてスマホを守った形だ。その後、田園都市線で渋谷に戻ったが、次第に事態の重大さが明らかになってきた。血が止まらず、痛みもひどかったので、渋谷からはタクシーで六本木の自宅に帰った。帰宅した私の顔を見た家人はビックリ仰天。すぐに救急車を呼び病院に搬送された。

【自分自身の行動検証】
後になって、コートのポケットからタクシーの領収書と釣り銭が出てきた。料金は1,610円、タクシー会社は日本交通である。渋谷から六本木なら金額的に妥当なところだ。気になったのは、転倒した現場がどこなのか?医者からも聞かれたが、記憶は曖昧だ。二子玉川駅の階段らしいが確証はない。転倒した現場が、綺麗な室内なのか、それとも道路上なのかで処置が違ってくるようだ。取り敢えず、駅の構内と告げて、それなりの処置をしてもらった。

【東急電鉄に電話】
ネットで東急電鉄の「お客様センター」の電話番号を調べ、早速、電話してみた。事の顛末を説明して、「二子玉川駅構内の防犯カメラに自分が映っていると思うので、カメラの映像を見せてもらえないか?」と質問したら、オペレーターは、一瞬言葉を失い固まってしまった。かろうじて「上司に相談します。」と言い、いったん保留に切り替えられた。しばらくして、「一般の方には、カメラの映像は開示しておりません。但し、警察から、捜査上必用という理由で開示を求められた場合は、開示しております。」との回答があった。さらに「もし弁護士に依頼して、弁護士から開示請求したらどうか?」と食い下がってみたが、「やはり一般の方には開示できません。」と、にべもない回答であった。

【日本交通に電話】
タクシーの領収書をあらためて見たら、「カスタマーサポートデスク」の電話番号が記載されていることに気がついた。早速、電話してみた。オペレーターは爽やかな声の男性である。事情を説明して、タクシーの乗車場所、乗車時刻、降車場所、降車時刻を聞いてみた。ものの1~2分で正確な回答があった。「乗車場所は、渋谷駅の南口、モヤイ像のあるところですね。進行方向は、渋谷スクランブル交差点に向かっています。降車場所は、六本木7丁目、明治屋ストアの近くです。乗車時刻は21:54で、降車時刻は22:06です。」極めて正確な情報だ。電車と違って、タクシーは個別対応がしやすい。それにしても、回答がスムーズである。ちなみに、タクシーの領収書には、料金、無線番号(車両番号)、営業所名、問い合わせ電話番号のほか、GPSコードが記載されている。おおよその日時さえわかれば、上記の情報がスムーズに出せる。カギはGPSコードだ。聞いてみたら、これは降車場所(料金を支払った場所)のGPSコードが記載されるとのこと。さすが“タクシー王子”こと川鍋一朗会長の会社だ。優れた情報システムと効率的な「カスタマーサポートデスク」、そして爽やかなオペレーター(きっとイケメン)を有している。そんな日本交通であるが、後日、あらためて車載カメラの映像を見せてもらえないかと尋ねた際は、ほぼ東急電鉄と同じ回答であった。残念!

【マンションの防犯カメラ】
私が住んでいるマンションの管理規約を見た。防犯カメラの運用について規定している。要点は以下の通り。

1 防犯カメラの設置、変更又は撤去は総会決議マター
2 防犯カメラの管理責任者は理事長
3 録画映像の保存期間は2週間
4 録画映像は原則として非開示
5 (前項の例外)理事長は、以下の場合、理事会の決議を経て、録画映像の再生及び確認を行うことができる。

①共用部分に故意による破損等の被害が発生したとき。
②共用部分で各種法令に抵触する行為による被害が発生したとき。
③その他、前2号に準ずる事態が発生したとき。

6 理事長は、捜査機関からの犯罪捜査目的による要請を受けた場合、録画映像を開示又は記録媒体の貸与・提供をすることができる。
(以下省略)

【まとめ・所感】
結果的に、防犯カメラの管理運用は、上述の三者とも同様な考え方に基づいていることがわかった。統一した基準があるのであろう。ちなみに、三者とも国土交通省の所管業種である。私自身の不注意から発生した事故なので、偉そうなことは言えないが、この事故でわかったことは、以下の通りである。

1 自分自身が映っている防犯カメラや車載カメラの映像は、管理者によって厳重に管理されている。見たいのは山々だが、警察のお世話にならないと開示してもらえそうにない。
2 日本交通のGPS運用は、かなり先進的である。配車アプリ「全国タクシー」は有名だが、それ以外の点でも優れていると思われる。これならUberに充分対抗できる。
3 自分自身の行動は、防犯カメラ、車載カメラ、GPS等によって、常に監視、トレースされている。それらの情報は、本人の意図に反する使い方がなされるかもしれない。それらの情報の管理運用を確認したり、削除を要求することができないのは、ちょっと問題である。それらの情報の「管理権」を取り戻したいと思うのは、私だけであろうか?

【著作権は、伊藤氏に属します】