第136回コラム:小向 太郎 理事(株式会社情報通信総合研究所 法制度研究グループ 部長 兼 
                                    主席研究員/IDF「法務・監査」分科会主査)
題:「デジタル情報は信用できるか」

 今年も終わりに近づいてきました。何かと気ぜわしくなってきたこの時期に、デジタル・ネットワークが潜在的に持っていた危険が一気に噴き出したように感じているのは、私だけではないでしょう。
 警視庁の公安情報とおぼしき情報、尖閣諸島の海上保安庁巡視船と中国船籍漁船の衝突映像、そして、wikileaksにおける国際機密情報などが、相次いでインターネット上を席巻して、話題をさらっています。すべて、ネット発で話題になり既存のマスコミがあとから追いかけているということも、社会が新しいステージに進みつつあることを感じさせるところです。
 そして、これらの影に隠れてあまり注目されなくなってしまいましたが、10月には、大阪地検特捜部の検事が証拠のフロッピーディスクに保存されたファイルの作成日付を改竄したとして逮捕されたことが、我が国の司法を揺るがす大事件となりました。
 情報のデジタル化によって、(1)複製・伝送のコストが低下したことによる情報拡散が起こりうること、(2)情報が変幻自在に加工・消去されることによる真正性に不安が生じること、が以前から指摘されてきました(詳しくは、拙著『情報法入門-デジタル・ネットワークの法律(NTT出版)』をお読み下さい)。しかし、立て続けに起こる大事件には、さすがに驚きを隠せません。
 ところで、デジタル・フォレンジックとは、「(2)情報が変幻自在に加工・消去されることによる真正性に不安が生じること」への挑戦であると言っても良いと思います。大分前に、法律が専門の大学の先生にデジタル・フォレンジックについて説明をしたことがあります。

筆者「デジタル情報は改竄が容易で痕跡が残らない場合があるので、ハッシュ値というのを取って、元の情報から改変されていないことを確認する技術があるんですよ」
教授「なるほど。ところで、最初のハッシュ値がちゃんと取られていると言うことはどうして分かるの?」
筆者「きちんと手順を踏んで行い、記録を残します。それから、通常はフォレンジック企業等が関与するので、第三者の目が入っていると言うことにもなるのでしょうね」
教授「う~ん。確からしいというのは分かるけど、動かぬ証拠という感じはしないなあ」
筆者「なるほど....」

 このときは、私の説明が悪かったのかも知れません。しかし、証拠保全を論じる際には、事件発生後にコピーされるデータと、元データとの関係を誰がどのように確認しているかどうかについても、きちんとした説明が必要になると思います。
 大阪地検の事件を受けて、現在捜査の在り方が検討されています。こうした視点を捜査の迅速性を損なわずにどのように取り入れていくかが、一番の課題になるでしょう。

【著作権は小向氏に属します】