第168号コラム: 藤村 明子 幹事(NTT情報流通プラットフォーム研究所 
セキュリティマネジメント推進プロジェクト セキュリティSEDP (情SP SED))
題:「震災後の働き方とルールの変化」

東日本大震災により被害を受けられた皆様におかれましては、心よりお見舞い申し上げますとともに、被災地におかれましては、一日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。

地震が発生した午後2時46分は、平日(金曜日)の午後であったことから、社会人の多くの方が、仕事中に揺れを経験されたことでしょう。
首都圏では、地震直後から被害状況が明らかになるにつれて、交通手段を中心に様々な混乱が生じたことから、職場や臨時の施設で夜を明かしたといういわゆる「帰宅難民」が大勢出たことも既に知られています。
交通網だけでなく各種通信網もしばらく混乱が続いたことから、家族、親族、仲間と即座に連絡が取れずに、連絡手段が回復するまで心を痛めていた方も多くいらしたことと推察いたします。
筆者は外出先にいた関係で、強めの余震が続く中、どのようにして身の安全を確保しようかとあちこち右往左往しました。筆者の環境では揺れの直後から、携帯電話その他のネットワークが早々に使用できなくなり、公衆電話もなかなか見つからなかったため、その結果、職場や家庭へ安否確認の連絡ができたのは地震発生から数時間後となりました。
今回、こういった経験をされた方は大勢いらっしゃると思います。

こういった誰にとっても未曾有の震災による混乱の中で、全従業員の安全の確保に関してとっさの判断を迫られたのが、企業、現場のリーダーだったはずです。
使用者の安全配慮義務により、日ごろの安全管理対策の策定や訓練が各組織で十分行われていたはずですが、いざ、大規模の地震が発生すると身辺にどのようなことが生じるのかについて、東京はじめ首都圏では多くの組織が初めて身をもって直面することになりました。
労働法の側面からみても、こうした中で、各組織が震災時に、労働協約、就業規則、労働契約の上では想定されていなかった運用を行った場合、それらを後からどのように従来の法律関係で説明するかという点もまた新たな課題として浮き彫りになってきました。

例えば、震災当日において、職場に勤務後もとどまるように指示したところもあれば、報道を通じて被害状況を把握した結果、急きょ勤務時間を繰り上げて全員帰宅の措置をとったところもありました。その後も、交通機関の回復待ちや、計画停電によるやむを得ない自宅待機措置や、遅出・早退出勤を認容したところもありました。
さらに、今夏の大規模節電対策に基づき、夏季休暇の時季指定や休日の変更、在宅勤務の義務的導入などを実施するところが増加しています。
このように、震災を契機に、労働条件の変更を伴うこれまでにない新たな施策が、比較的大規模な企業を中心として、次々と取り組まれています。

従来、法では労働条約の変更可否について合理性の有無という判断枠組みがとられ、及ぼしうる程度、必要性、相当性、状況等が総合考慮されていました。しかし、事態が長期化する中、震災に伴う措置や節電対策が、労働条件の変更理由の要素としてどれだけの影響力を持ちうるのか、ということが今後さらに問題になることが予想されます。

災害時に、その場の状況に応じて立てたとっさの緊急施策が他の事情を優先してしまうことは止むをえないことです。ただ、想定していなかった運用を行った時は、それらをどのような形で従来ルールの枠組みの中で説明し、解決していくかが重要といえるでしょう。

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