第202号コラム:安冨 潔 副会長(慶應義塾大学大学院 法務研究科 教授、弁護士)
題:「デジタル・フォレンジックの普及にむけて」

2004年8月に創設された「デジタル・フォレンジック研究会」も、はやいもので今年度末で第8期を終わろうとしている。
当初は「デジタル・フォレンジック」って、「なに?それ??」ということで、かならずしも周知されていたわけではなかったと思われる。しかし、情報通信技術の利用が今日の社会でのインフラとなり、社会の諸現象にデジタル・フォレンジックを用いる場面がかなり普及してきた。

ふりかえれば、毎年12月中旬に開催されるデジタル・フォレンジック・コミュニティも、「デジタル・フォレンジックの目指すもの- 安全・安心な情報化社会実現への挑戦 -」(第1期)、「デジタル・フォレンジックの新たな展開- コンプライアンス、内部統制、個人情報保護のための技術基盤-」(第2期)、「J-SOX時代のデジタル・フォレンジック- 信頼される企業・組織経営のために – 」(第3期)、「リーガルテクノロジーを見据えたフォレンジック- IT社会における訴訟支援・証拠開示支援 – 」(第4期)、「グローバル化に対応したデジタル・フォレンジック- ITリスクに備え、信頼社会を支える技術基盤 -」(第5期)、「事故対応社会におけるデジタル・フォレンジック- それでも起こる情報漏洩に備える -」(第6期)、「生存・成長戦略を支えるデジタル・フォレンジック- 事業リスクを低減する技術基盤 -」(第7期)をテーマとして開催されてきたが、今期(第8期)は「実務適用が広まったデジタル・フォレンジック- 事例・実務紹介から学ぶ -」と題して開催された。これもデジタル・フォレンジックへの理解を深めようというところからはじまり、デジタル・フォレンジックが社会経済活動においてどのように利用されるのかを議論し、今期は、実践的なデジタル・フォレンジックの利活用を促進するテーマでコミュニティが開催されたのである。

さて、第8期では、これまでご尽力いただいた辻井重男先生から佐々木良一先生へと会長が交代し、あらたな体制で、研究会を運営していくことになった。

 研究会活動としては、これまでと同様に熱心に行われた「技術」、「法務・監査」、「医療」の各分科会による専門分野でのデジタル・フォレンジックの利活用の研究のほか、デジタル・フォレンジックへの理解を深めてもらうためにはじめて「IDF講習会」が開催された。

 第8期の成果としてあげられるのは、「技術」分科会を主体とした2010年4月に公表した「証拠保全ガイドライン」の改訂作業であり、本年5月上旬に「証拠保全ガイドライン(改訂版)」を公表する予定である。この「証拠保全ガイドライン」は、インシデントレスポンスを想定した初動対応、証拠保全のプロセスの平準化への指針となるべく提言しているものであるが、さまざまな分野での利用が期待されるところである。もっとも、「法務・監査」分科会が活動方針としてあげていた刑法等の一部改正に対する立法提案の可能性を含めた検討を進めることや「医療」分科会での医療現場で有効に利活用されるべきガイドライン案の検討と整備を目指すことについては、かなり検討と意見交換及び情報収集等は進んだものの、具体化迄は至らず第9期で継続して検討を進めることを予定している。

 また、「IDF講習会」は、IDF団体会員の持つ製品や専門トレーニング等の紹介・説明を行い、実際に器機を使用してデジタル・フォレンジックのプロセスを学ぶ講習会で、熱心かつ積極的な参加であった。余談であるが、最近では、裁判員裁判等で、犯罪に使用されたPCや携帯電話の解析を警察職員が行った場合、解析手法等について鑑定の真正さについて証人尋問が行われることがある。検察官や弁護人もデジタル・フォレンジックに無関心ではいられない。また、外国企業との訴訟では、代理人弁護士も、デジタル・フォレンジックの基礎を理解していないと、適切な訴訟対応ができない。今後、ますます法律の分野では、デジタル・フォレンジックへの関心が高まるものと思われる。

 最後に、内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)とIDFでの「証跡管理のあり方」勉強会を11月から実施してきており来期も継続するが、その成果は今後NISCより逐次公表される予定である。

 以上のとおり、第8期は、実践的なデジタル・フォレンジックの利活用がより有効になされることを予測させる期であった。今後、さまざまな分野でデジタル・フォレンジックが用いられるであろうが、そのためにも第9期でのデジタル・フォレンジック研究会が積極的に活動することが期待される。

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