コラム第918号:「IDFの第23期計画について」

第918号コラム:植草 祐則 理事(IDF事務局長、株式会社NTTデータ先端技術 セキュリティ&テクノロジーコンサルティング事業本部 サイバーセキュリティインテリジェンスセンター シニアスペシャリスト)
題:IDFの第23期計画について

週末の3連休は好天が続き、いよいよ桜の開花に向けて勢いが付いていますが、花粉もここ数年では最高の量となっているようで、当面は薬の手放せない事務局長の植草でございます。

IDFは4月より第23期を迎え、新たな活動が本格的にスタートします。
日頃よりご参加・ご協力いただいている皆様に、改めて御礼申し上げます。

本コラムでは、いつも通り第22期の簡単な振り返りと第23期の計画についてご説明させて頂きます。

まず第22期ですが、大きな点としては5月に事務局のオフィスを移転し、固定費を削減するとともに、駅に近く各種活動にも便利になりました。そして、第21期末に受けたご寄附をベースとして、安定した財務基盤が構築されました。イベント系では、特にIDF講習会の伸びが21期に引き続き顕著でした。これは各社からご提供いただくコースが、円高の影響で海外ベンダーのトレーニングなどと比べると割安に見えたり、一定金額のために各組織での定常的な教育施策・予算に組み込まれつつあるというような要因が考えられます。

さて、ここ数年を振り返ると、デジタル・フォレンジックを取り巻く環境は大きく変化してきました。サイバー攻撃の高度化やクラウドの普及に加え、特に象徴的なのが生成AIの急速な進展です。業務効率化や新たな価値創出が進む一方で、「証拠の信頼性」や「真正性の担保」といったフォレンジックの根幹に関わる論点は、これまで以上に複雑化しています。

この流れは、IDFにおいても継続的に議論されてきました。これまでの「デジタル・フォレンジック・コミュニティ」では、AIやフェイク、データの信頼性といったテーマが段階的に取り上げられ、単発のトピックではなく、蓄積された“流れ”として深化してきています。第23期は、その延長線上において、「AIとデジタル・フォレンジック」をより体系的に捉えるフェーズに入ったと位置付けています。

こうした背景のもと、第23期の大きなトピックの一つが、新たに設置する「AI分科会」です。本分科会では、AIを悪用したサイバー攻撃やディープフェイクといったリスク領域に加え、自動運転やドローンなど社会インフラへの適用も視野に入れながら、フォレンジックの新たな役割と、技術的・法的課題の整理を進めていきます。これまでコミュニティで蓄積してきた議論を、継続的かつ実務に接続する研究活動へと発展させていく取り組みです。

一方で、IDFの活動は新しいテーマだけにフォーカスするものではありません。証拠保全ガイドラインの改訂や、日本語処理解析性能評価等の継続的な取り組みも引き続き重要な柱です。クラウドやSaaS、EDRといった環境を前提とした実務的な知見や、信頼できるツールの評価といった情報発信の活動を積み重ねていきます。

また、第23期も「IDF講習会」「デジタル・フォレンジック・コミュニティ2026」「DF資格認定試験」等のイベントを継続して実施します。これらは単なるイベントではなく、学び・交流・実務力向上をつなぐ重要な場です。特にコミュニティは、技術・法務の両面から最新テーマを横断的に議論できるIDFならではの特徴的なイベントであり、昨年は若手活動WGによるCTFを併催するなど、新しい取り組みも行っています。第23期も、参加者にとって価値のある場となるよう企画を進めていきます。

若手活動WGの取り組みも着実に広がりを見せています。技術者交流会やハンズオン企画などを通じて、新しいメンバーの参加や分野横断のつながりが生まれてきました。IDFの将来を支える人材を育てていくという意味でも、この流れは大切にしていきたいと考えています。

運営面においては、これまでの財政基盤強化や効率化の成果を踏まえ、人的リソースの安定確保と運営体制の強化を継続的に進めます。これにより、安定した運営を維持しつつDF基礎資格試験のCBT化など新しい取り組みに適切に投資し、無理のない持続可能な形での活動の幅と深さの両方を伸ばしていく方針です。

IDFの社会的な役割としての、デジタル・フォレンジックの普及・啓発・提言活動も引き続き実施して行きます。AIの進展により、「何が本物か」を見極めることはこれまで以上に難しくなっており、技術・法務・運用の各側面からの実践的な知見が求められています。また、安全保障やデータ主権に関する議論が進む中で、デジタル・フォレンジックの観点からの提言はますます重要性を増しています。IDFとして、知見や提言の発信とそれを基にした関係機関や他団体との連携を通じ、社会的課題への対応に貢献したいと考えています。

第23期も、皆様とともに新しいチャレンジを進めていければと思います。
引き続きご理解とご協力のほど、よろしくお願いいたします。

【著作権は、植草氏に属します】