コラム第925号:「SNSは「子どもに有害」だから禁止すればよいのか」
第925号コラム:小向 太郎 理事(中央大学 国際情報学部 教授)
題:「SNSは「子どもに有害」だから禁止すればよいのか」
2025年11月のコラムで、子どもとSNSをめぐるリスクには多様なものがあること、そして日本で真に深刻なのがどのリスクなのか冷静に見極めることが重要だと書きました。あれから子どものSNS利用を規制すべきという議論は、ますます活発になっています。
オーストラリアが2025年12月に16歳未満のSNS利用禁止を世界で初めて施行すると、フランス、スペイン、オーストリアなどでも、年齢による利用制限を強めようとする議論が広がっています。欧州議会も2025年11月の決議で、デジタル最低年齢を16歳とする方針を支持しています。日本でも総務省が2026年4月の有識者会議でSNS事業者に年齢に応じた利用制限を求める案を示して、法改正も視野に夏までに結論を出すことになっています(「SNS依存対策で年齢制限案 総務省、未成年保護へ法改正視野」日本経済新聞2026年4月22日)。
最近のこうしたSNS規制論では、SNSがタバコやアルコールに近いものとして語られることがあります。子どもは成長過程にあり、依存しやすく、判断力も十分ではありません。だからこそ、強い刺激や依存性を持つサービスから遠ざけるべきだ、という発想です。
たしかに、SNSには深刻なリスクがあります。長時間利用による睡眠不足、いじめや誹謗中傷、自傷や過激なダイエットを誘う投稿、性的被害、アルゴリズムによる過剰な推薦などが、子どもに悪影響を与える可能性があることは確かでしょう。
しかし、ここから直ちに「子どもにはSNSを使わせない」という結論に進むのは早いと思います。SNSは、タバコやアルコールとは違います。タバコを吸うことに、子どもの成長にとって積極的な意味を見いだすことは難しいでしょう。大人も含めて、明確に健康を損なうという科学的知見があります。アルコールについても同じです。これに対して、SNSやインターネットは、友人とのつながり、学習、創作、社会参加、相談先へのアクセス、少数派の子どもが孤立を避けるための場にもなっています。
そうした利点を踏まえれば、危険があるからといって一律に遠ざければよいというものではなく、実際にタバコやアルコールでさえ、現実の規制は単純な全面遮断ではありません。未成年者の喫煙や飲酒は禁止されていますが、社会のあらゆる場面で身分証明書を提示させているわけではありません。販売者の確認、家庭での監督、学校教育、広告規制、啓発活動などを組み合わせて、リスクを減らしています。SNSについてだけ、すべての利用者に厳格な年齢確認を求め、一定年齢未満の利用を技術的に排除するなら、それはむしろタバコやアルコールより強い規制になりかねません。
また、年齢確認には、個人情報保護の問題もあります。厳格に年齢を確認しようとすれば、身分証明書、顔画像、生体情報、クレジットカード情報などが使われる可能性があります。これらの情報が大量に保存されることになれば、子どもだけでなく利用者全体が、リスクにさらされることになります。
実際に日本では、マッチングアプリで、年齢確認のために提出された運転免許証や健康保険証などの画像データが大量に流出した事例があります。この事例では、利用者が退会したあとも10年間こうした情報が保存されていたことが注目されました。この年齢確認は、出会い系サイト規制法によって義務付けられているものです。年齢確認を法律で義務付けると、事業者は「確認したことを後で証明する必要がある」と考え、本人確認書類の画像や確認記録を長期間保存しがちです。しかし、保存される情報が多く、保存期間が長くなれば、それだけ漏えいや目的外利用のリスクも高まります。
なお、EUやオーストラリアでは、年齢確認のためにできるだけ個人データを使わないことをめざしています。単純に全員へ身分証明書の提出を求めるのではなく、「この人は一定年齢以上である」という事実だけを示し、氏名や住所などをサービス事業者に渡さない仕組みが検討されていますし、個人情報保護制度上もこのような配慮が求められています。
また、日本で本当にどの程度の子どもが、どのようなSNSリスクにさらされているのかについても、丁寧に見る必要があります。確かに、他の年代と比べて10代にSNS依存の疑いが相対的に高く、7%にSNS依存の疑いがあるという調査結果も報じられています。しかしこれは、すべての10代が同じ危険にさらされているわけではないことも示しています。もともと孤独や不安を抱えている子どもがSNSに長く滞在している可能性もあります。睡眠不足、家庭環境、学校での人間関係など、複数の要因が絡んでいるかもしれません。そもそも、こうした調査には、子どもがSNSを使っていない場合と比べて、精神的不調の生じ方に違いがあるのかといった、比較の視点が欠けている場合が多いです。SNSだけを原因と決めつけると、必要な支援を見誤るおそれがあります。
こうした点からも、拙速な一律禁止の導入は望ましくありません。子どもをデジタル社会から排除することではなく、子どもがより安全に参加できる環境を作るべきです。まず取り組むべきなのは、子どもを長時間利用に誘導する設計を抑制すること、問題を抱えた子どもが孤立しないよう相談・教育体制を整えること、そして被害が生じたときに迅速に支援へつなげる仕組みを作ることです。
子どもをSNSから排除する制度を作れば、とりあえずリスクを減らすことはできるかもしれません。その一方で、子どもから学び、つながり、表現の機会を奪ってしまうおそれもあります。「危険だから禁止」という単純な解決策に飛びつくのではなく、証拠に基づき、安全と自由、保護と参加、年齢確認とプライバシーをどう両立させるかについて、冷静な議論を行うべきです。
※著作権は、小向氏に属します。
※本稿は筆者の見解であり、IDFの見解を示すものではありません。


