コラム第927号:「もうラーメンを素手で食べない」

第927号コラム:廣澤 龍典 理事(IDF「若手活動」WG 主査/IDF理事)
題:「もうラーメンを素手で食べない」

各々の環境や興味関心によって細かい解釈は異なるでしょうが、私から見た2025年の生成AIは、本格的に使えるようになった(スタートした)という印象を受けました。もちろん機械学習や深層学習といったAIのコアとなる技術は何年も前から存在し、一定の力を見せつけていました。とはいえ、当時は力を発揮できる用途やこれらの技術を扱える人材が限られており、現在のようにAIが日常に溶け込んでいるというよりは、「ITの専門分野の一つ」という立ち位置でした。つまり、入力に対して、求めた通りの正しい出力を返させるには、一般の人では極めて難しかったと思います。
そこからAIは一気に進化を遂げ、今や私たちは「使い方」を意識する必要すらほとんどなくなりました。チャットベースで誰でも簡単に精度の高い回答が得られるようになり、イラストや動画ですら作成することができる時代が来ています。かつて画像生成AIが「ラーメンを素手で食べるアイドル」という尊厳破壊イラストを生み出していたのも今や懐かしい笑い話です。
とはいえ、「自分の担当業務ではなかなかAIを使う場面がない」、「わざわざ自分が使う必要があるのだろうか」と疑問を抱いている方もまだいらっしゃるのではないでしょうか。今回はそうした方に向けて、「比較的扱いやすく、まずはここから触ってほしい」と思えるAIサービスをご紹介します。本コラムをメールにて購読されている方には釈迦に説法かもしれませんが、周囲への普及活動のネタとしてどうぞ最後までお付き合いください。

今回ご紹介したいのは、Googleが提供している「NotebookLM」というサービスです。このサービスの基本的な機能は無料で使用でき、その魅力は次の2点に集約されます。
 1. 与えられた資料を根拠/情報源として回答を行う
 2. 単純なチャットでの回答だけでなく、多彩な形式での回答が可能
前者の「資料を根拠に回答する」という特性は、ハルシネーション(事実に基づかない嘘の回答を出力すること)の可能性を抑えられます。資料の範囲外の質問に対しては、適当に嘘を吐くのではなく「資料に記載がありません」と正しく降参してくれるため、一般的な生成AIを使う上で常に付きまとうリスクを、NotebookLMではほとんど気にする必要がありません。ただし、読み込ませた資料自体に誤りがある場合はそのまま回答に反映されてしまう点や、複雑なコンテキストでのわずかな誤認識には注意が必要です。
この特性は、「ゼロから画期的なアイデアを出させる」「壁打ち相手になってもらう」といったいわばクリエイティブな発想が求められる場面よりも、「受領した大量の資料を読み解き内容を理解する」「一般公開されている英語のマニュアルから技術的な仕様を理解する」といった、時間をかければ可能だが正直やりたくない…といった泥臭い場面で真価を発揮します。
チャット画面の回答には、ソースとなった資料の「どの記述を参照したか」を示すガイド(引用元バッジ)が明示されます。そのため、重要だと感じたパートや違和感を覚えた箇所があれば、即座に資料の該当箇所へジャンプし、前後の文脈を含めて正確な意図を確認できます。「AIの要約だけを鵜呑みにするのは怖いから、要所要所で自分の目で見てチェックしたい」という場合でも、確認にかかる時間を劇的に短縮できるのが強みです。
なお、具体的に読み込ませることができる資料は、PDFやPowerPoint、Wordといったビジネスでお馴染みのファイルはもちろん、WebサイトのURL直接指定や画像ファイルにも対応しています。普段使いで困ることはほぼありませんが、注意点としてExcel(.xlsx)ファイルは一度Googleスプレッドシートに置き換えるか、CSVファイル形式にして読み込ませる必要があることに注意が必要です。

そして、後者の「豊富なアウトプット」こそが、NotebookLMの真骨頂です。一般的なチャットによる一問一答だけでなく、以下のような多彩な形式をサポートしています。
 ・音声解説/動画解説(資料をもとにした合成音声・映像付きの解説コンテンツ)
 ・インフォグラフィック/スライド(視覚的に構造化されたまとめ資料)
 ・マインドマップ(思考の整理や関係性の可視化)
 ・フラッシュカード/クイズ(知識定着のための学習ツール)
 ※機能名や機能内容は執筆時点のもので更新されることがあります。最新の内容は公式サイトをご確認ください。
いずれの形式も「どのような観点で作ってほしいか」を指示することでき、回答内容を調整/最適化できます。私が特に気に入っているのは「動画解説」「インフォグラフィック」「クイズ」です。動画解説は、生成AIを使う上では逃れられなかった「文字ベースの回答を延々と読み続ける苦痛」から解放され、ラジオ感覚あるいは動画コンテンツとして直感的に内容を理解させてくれます。また、インフォグラフィックは「動画をじっくり見る時間はないけれど、テキストだけだと頭に入りにくい」という時に、1枚のビジュアルで内容を把握できるため非常に便利です。
最後の「クイズ」は直近でよく使っている形式です。最近、業務の一環で海外ベンダーの製品/サービスに関する資格を取得する必要があり、その勉強にクイズを活用しました。海外ベンダーの資格であってもメジャーなクラウドサービスなど、一部の資格は日本語の参考書や問題集が市販されていますが、そうでないものも多く、なかなか実務経験が少ない中での学習は学習方法があっているのかすら分からず骨が折れます。
しかし、英語圏に目を向ければ、公式ドキュメント、サンプル問題、コミュニティフォーラムなどに膨大な一次情報が存在します。これらを資料としてNotebookLMに追加しました。そして、概要や基礎知識はチャットの回答で把握し、先述の動画解説やインフォグラフィックで視覚的に理解を深め、最後の仕上げとしてクイズを作成し知識の定着度を確認する――このサイクルを回すことで、学習が非常にスムーズになりました。クイズで間違えた部分に対しては「なぜこの選択肢は間違いなのか、資料をもとに解説して」と掘り下げることもできるため、単純な丸暗記に陥らず、比較的低コストで効果が高い学習環境を構築できました。

本コラムの中ではNotebookLMのすべてを語り尽くすことはできませんが、「ハルシネーションの少なさ」と「視覚や聴覚に訴えかける豊富なアウトプット形式」の利便性についてはご紹介できたかと思います。日進月歩のAI技術は私たちIT業界に身を置く人間であっても、キャッチアップが大変な領域です。だからこそ、まずはこうした「手堅く、使いやすい生成AI」から少しずつ触れていき、道具として手になじませていくのが近道だと感じています。
最終的には自在にプロンプトを操って業務をハックして評価をUPさせるだけではなく、浮いた時間で面白いミームイラストやショート動画を作ってスライド資料の片隅におけるぐらいの余裕ができたら良いなと思いませんか。その時はアイドルに素手でラーメンを食べさせたりしないでくださいね、ミスター・エンジニア?

※著作権は、廣澤氏に属します。
※本稿は筆者の見解であり、IDFの見解を示すものではありません。