コラム第928号:「コロラド州AI規制法の改正と今後の米国AI規制の行方」

第928号コラム:尾崎 愛美 理事(筑波大学 ビジネスサイエンス系 准教授)
題:コロラド州AI規制法の改正と今後の米国AI規制の行方

I.はじめに―コロラド州AI規制法の改正
2026年5月、コロラド州は、2026年6月末日に施行予定であったConsumer Protections for Artificial Intelligence(「人工知能に対する消費者保護法」※1)を廃止し、新たにAutomated Decision-Making Technology(「自動意思決定技術法」※2)を制定した。2024年5月に成立した「人工知能に対する消費者保護法」は、全米で初となる包括的なAI規制法として注目が集まっていたが、成立当初から産業界をはじめとする利害関係者から批判が相次いだために当初の施行日が延長されるなど、見直しが進められていた。同法については、2026年4月に、司法省が、同法の条項が合衆国憲法第14修正の平等保護条項に違反するとしてxAIによって提起された訴訟に参加するといった事態にまで発展している※3。今般の「自動意思決定技術法」の成立により「人工知能に対する消費者保護法」は廃止されることになったところ、今後の米国のAI規制のあり方については、改めて考察する必要があると思われる。そこで、本コラムでは、「人工知能に対する消費者保護法」と「人工知能に対する消費者保護法」の内容を紹介しつつ、今後の米国のAI規制の行方について考えてみることとしたい。

II.Consumer Protections for Artificial Intelligence(「人工知能に対する消費者保護法」)
1.概要
「人工知能に対する消費者保護法」は、AIシステムのうち、High-risk artificial intelligence system(以下、「高リスクAIシステム」という。)を対象とする。「高リスクAIシステム」とは、AIシステムが、個人に重大な法的ないし重要な効果を及ぼす決定を行う、またはその決定に実質的要因として関与する場合を指す。本法の対象となるのは、教育機会、雇用・雇用機会、金融・融資、重要な政府サービス(なお、犯罪捜査については、直接の対象とされてはいない)、医療、住宅、保険、法律サービス等である。

2.開発者の義務
本法は、AIシステムの開発者に対し、高リスクAIシステムについて、既知または合理的に予見可能なアルゴリズム差別リスクから消費者を保護するために合理的注意を尽くす義務を課すものである。開発者は、利用者に対し、想定される利用方法、不適切または有害な利用方法、訓練データの概要、システムの限界、差別リスク、目的、想定される便益・用途、差別緩和措置、システムの監視方法などの情報を提供する必要がある。また、開発者は、自社のウェブサイト等で、高リスクAIシステムの種類と、アルゴリズム差別リスクをどのように管理しているかを要約した公開声明を出す必要がある。さらに、システムがアルゴリズム差別を生じさせた、または生じさせる合理的可能性があることを発見した場合や、利用者から信頼できる報告を受けた場合には、90日以内にコロラド州司法長官および既知の利用者等へ開示する義務がある。

3.利用者の義務
本法は、利用者にも、高リスクAIシステムの利用により生じる既知または合理的に予見可能なアルゴリズム差別リスクから消費者を保護するため、合理的注意を尽くす義務を課すものである。利用者は、リスク管理方針・プログラムを実装し、影響評価を行い、少なくとも年1回、高リスクAIシステムがアルゴリズム差別を生じさせていないかをレビューする必要がある。利用者が高リスクAIシステムを重大な法的ないし重要な効果を及ぼす決定に使う、またはその決定の実質的要因として使う場合、決定前に本人へ通知する必要がある。個人に対して重大な法的ないし重要な効果を及ぼす決定が行われた場合、利用者は当該個人に対して、AIシステムがどの程度・どのように決定に寄与したか、処理されたデータの種類、データの情報源を説明する必要がある。

4.不服申立て・制裁金
本人には、不正確な個人データを訂正する機会と、技術的に可能であれば人間によるレビューを含む不服申立ての機会が与えられる。本法の違反に対しては、州司法長官または地方検事は、違反ごとに最大2万ドルの民事制裁金を求めることができる。さらに、高齢者に対する違反については、違反ごとに最大5万ドルの民事制裁金が定められている。

III.Automated Decision-Making Technology(「自動意思決定技術法」)
1.概要
コロラド州議会によれば、本法は、Automated decision-making technology(自動意思決定技術。以下、「ADMT」という。)に関する新たな要件を設けるものであるとされる。ADMTとは、個人データを処理し、予測・分類・スコアなどの出力を生成し、個人に関する決定・判断・判定に使うための技術と定義される。本法の対象は、教育、雇用、住宅、金融・融資、保険、医療、重要な政府サービスへのアクセス、資格、報酬等に関する決定である。

2.開発者の義務
2027年1月1日以降、開発者は、重要な決定に実質的影響を及ぼすADMTに関し、使用の目的、訓練データのカテゴリー、適切な利用方法、人間によるレビューの方法等を記載した文書を提供する義務を負う。また、開発者・利用者の双方に、少なくとも3年間の記録保存義務が課される。

3.利用者の義務
利用者は、対象者に対する明確かつ明示的な通知、対象者に不利な結果が生じた場合のADMTの役割に関する平易な説明、誤った個人データを訂正する機会、人間によるレビューや再検討の仕組み等を設けなければならないとされている。

4.不服申立て・制裁金
個々のコロラド州民には、自らの権利を侵害した企業に対して、裁判所において責任を追及する権利(私的訴権)は認められていない。

IV.おわりに―今後の米国のAI規制
1.人権保護団体による批判
人権保護団体Electronic Privacy Information. Center(「電子プライバシー情報センター」。以下、「EPIC」という。)は、改正後の「自動意思決定技術法」が当初法である「人工知能に対する消費者保護法」に含まれていた多くの重要な安全性およびテストに関する要件―すなわち、アルゴリズム差別を回避するために開発者および利用者に課されていた注意義務、利用者がリスク管理プログラムを構築すべき要件、利用者が影響評価を実施すべき要件、ならびに司法長官に対する報告義務等―を削除するものとなったとして、「自動意思決定技術法」を批判する※4。また、同じく人権保護団体のCenter for Democracy and Technology(「民主主義と技術センター」以下、「CDT」という。)に所属するHall氏は、改正法が、当初法が有していたアルゴリズム差別防止のための積極的義務を後退させ、実質的には通知・開示中心の制度へ転換してしまったとの評価を示している※5。

2.州レベルのAI規制に対する批判と今後の米国の方向性
他方、米国労働省賃金時間局局長のロジャース氏と米国雇用機会均等委員会(EEOC)の元首席顧問であるケリー弁護士は、「AIに関する実質的な規制の取り組みのほとんどは、州レベルで行われてきたが…(中略)…その多くは草案が不十分であり…(中略)…有権者に対して「行動している」ことを示すための焦りが、対象事項に対する熟考を妨げ、一貫性を欠き欠陥のある規制枠組みを生み出した」として、当初法を含めた州のAI規制に対して批判的な見解を示している※6。実際に、2025年7月に公表されたAmerica’s AI Action Plan※7(州のAI規制体制が資金の有効性を妨げる場合には資金を制限することを検討するよう求めるもの)等、連邦レベルでは州によるAI規制を抑制しようとする動きがみられる。さらに、2025年12月の大統領令(“Ensuring a National Policy Framework for Artificial Intelligence”)は、コロラド州の当初法を「AIモデルに『虚偽の結果』を出させる可能性がある」と批判した上で、連邦レベルのAI法の策定を目指すべきとしている※8。この大統領令は、州法のばらつきによる「一貫性を欠き費用のかかるコンプライアンス体制」から米国AIイノベーションを保護すべきとの発想に基づくものであり、今後の米国のAI規制の方向性を考察する上で参考となろう。

【本文中の脚注】
※1 SB24-205.https://leg.colorado.gov/bills/sb24-205
※2 SB26-189. https://leg.colorado.gov/bills/sb26-189
※3  U.S. Department of Justice, Justice Department Intervenes in xAI lawsuit Challenging Colorado’s ‘Algorithmic Discrimination’ Law, April 24, 2026.
https://www.justice.gov/opa/pr/justice-department-intervenes-xai-lawsuit-challenging-colorados-algorithmic-discrimination
※4 Electronic Privacy Information. Center, Colorado Legislature Again Amends Landmark AI Law, May 14, 2026.
https://epic.org/colorado-legislature-again-amends-landmark-ai-law/
※5 Jule Pattison-Gordon, Colorado Revamps Landmark AI Law, May 13, 2026.
https://www.governing.com/policy/colorado-revamps-landmark-ai-law
※6 Bradford J. Kelley & Andrew B. Rogers, The Sound and Fury of Regulating AI in the Workplace, JOL Online (December 2025).
https://journals.law.harvard.edu/jol/2025/12/06/the-sound-and-fury-of-regulating-ai-in-the-workplace/#_edn1
※7 https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2025/07/Americas-AI-Action-Plan.pdf
※8 https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/12/eliminating-state-law-obstruction-of-national-artificial-intelligence-policy/

※著作権は、尾崎氏に属します。
※本稿は筆者の見解であり、IDFの見解を示すものではありません。