コラム第934号:「サイバー犯罪の量刑を見直すべきではないか?」

第934号コラム:須川 賢洋 理事(新潟大学大学院 現代社会文化研究科・法学部 助教)
題:サイバー犯罪の量刑を見直すべきではないか?

 サイバー犯罪の量刑が最高でどれくらいか、比較してみたことはあるだろうか?
 主なものを挙げてみると
(1)私電磁的記録不正作出罪(刑法161条の2第1項)
 …5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
 公電磁的記録不正作出罪(刑法161条の2第2項)
 …10年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金
(2)電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法234条の2)
 …5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
(3)電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)
 …10年以下の拘禁刑
(4)不正指令電磁的記録作成罪(ウィルス作成罪)(刑法168条の2)
 …3年以下の拘禁又は50万円以下の罰金
(5)不正アクセス罪(不正アクセス禁止法違反)
 …3年以下の拘禁又は100万円以下の罰金
となる。

 一概に比較できるものではないが、参考までに一般的な傷害や窃盗の量刑は
・傷害罪(刑法204条)
 …15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
・窃盗罪(刑法235条)
 …10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
である。

 これらについて日頃から考えていることをいくつか述べておくと、まず第一に、ほとんどの罪が制定以来変わってないということが言える。特に、(1)~(3)においては、1987年(昭和62年)に刑法に電磁的記録の概念とその関連犯罪が規程された時のままである。言うまでもなく、インターネット時代よりもはるかに昔の、行政機関や金融機関、大学などの研究機関にようやく大型コンピュータが導入された時期である。特に電磁的記録不正作出罪は、この時期に制定された法であるが故に、公的記録に対する犯罪行為のほうが私的記録に関する犯罪行為より重くなっている。同条は、コンピュータ上にデータを勝手に作り出す罪であり、近年はこれに基づく検挙が非常に多い。例えば、英語検定などのオンライン試験を替え玉で受験したりした場合や、犯罪に用いるための暗号資産の裏口座(取引用ID)などを勝手に作成した場合などに適用される。つまり、パブリックセクターよりもプライベートセクターのほうがはるかに大量かつ影響力の大きい情報を持っている今日では、私電磁的記録への犯罪がより多くを占め、その社会的影響もまた大きいにもかかわらず、公電磁的記録の価値を重要視していることには、今の時代にそぐわないと言える。

 第二に、コンピュータウィルスの作成罪(*1)であるが、これは2011年(平成23年)に制定されたサイバー犯罪関連法規の中では比較的新しい条文であるが、同じようにコンピュータやサーバーに影響をあたえる電子計算機損壊等業務妨害罪よりも少し量刑が軽くなっている。しかし、考えてみれば今の時代においてコンピュータウィルスを流布することは、社会のインフラ全体への攻撃やテロ行為に近いものだとも言えよう。一度、強力なマルウェアが出回った時の被害の深刻さを考えれば、この量刑も再検討の余地はあると思われる。

  最後に、不正アクセス禁止法であるが、本法だけはサイバー犯罪法規の中では珍しく、過去に一度、重罰化の改正が行われている。1999年(平成11年)制定時は、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」(*2)であったものが、2012年(平成24年)改正時に現在のものになり重罰化されている。社会への影響を考えると、不正アクセスについても更に重罰化すべきではないかと考える人は多いと思うが、不正アクセス罪は、現実空間における住居侵入罪のようなもので、他人のネットワークにただ侵入して何もしなかった場合でも成立するので、これを電磁的記録不正作出罪や電子計算機損壊等業務妨害罪と同等のレベルの犯罪と扱うことは難しい。つまり、不正アクセス行為を今より重罰化したいのであれば、まず(1)~(3)の量刑を上げる必要がある。

 今更改めて言うまでもなく、電磁的記録、つまりデジタル情報の価値がアナログ情報よりもはるかに大きくなっている今日においては、アナログ情報前提の刑罰体系は見直す必要のある時期に来ているのではないだろうか…。

(*1)実際の条文には提供罪や供用罪も含まれる。
(*2)2025年6月からすべての法律において、”懲役”は”拘禁”に表記変更されている。

※著作権は、須川氏に属します。
※本稿は筆者の見解であり、IDFの見解を示すものではありません。