第310号コラム「リングプロテクションモデルへの回帰」

第310号コラム:名和 利男 理事 (株式会社サイバーディフェンス研究所 理事 上級分析官)
題:「リングプロテクションモデルへの回帰」

「サイバー攻撃の急激な高度化と巧妙化」については、十数年前から毎年のように言われ続けているが、特に、ここ数年はそれ以前の想定や想像を遥かに超えるレベルで急激に変化している。

筆者は、国内の政府機関や民間企業に対するサイバー攻撃(前者)への対応に加え、公共の安全を害する恐れのある諸活動におけるサイバー攻撃(後者)も積極的に対応させていただいている。その中で、最近は「後者」の攻撃の質と量が劇的に向上していると強く感じている。被害組織の機密保持と利益確保のため、個別具体的に事例を紹介することはできないが、複数の組織で発生しているものとして、一例だけ挙げると次のようなことがある。

① 攻撃者は、ターゲットの関係組織(委託業者、プロジェクト等で連携している組織、協力会社等)の構成員のメールアカウントをハイジャックする(乗っ取る)。
② 攻撃者は、関係組織の構成員が、数十分前から数時間前にターゲットに送信した業務メールの添付ファイルをダウンロードし、(ゼロデイ脆弱性を利用した)不正コードを挿入した上で、当該メールに再添付する(差し替える)。(送信済みボックスから、容易にダウンロードできるため、関係組織の構成員は全く気付かない。)
③ 攻撃者は、②で細工した悪意のあるメールを、関係組織の構成員のアカウントで被害者に再送信する。(事実上の標的型攻撃メールとなる。)
④ ターゲットは、関係組織の構成員から再送されたメールと誤認識し、(攻撃者によって細工された)添付ファイルを疑いなく開封してしまう。

第309号コラム「警察官のサイバー事案対処能力の底上げのために」

第309号コラム:上原 哲太郎 理事 (立命館大学 情報理工学部 情報システム学科 教授)
題:「警察官のサイバー事案対処能力の底上げのために」

 この4月4日に、京都府警とセキュリティ関係企業、地元企業、大学および行政の共同の研究会である、京都サイバー犯罪対策研究会の設立総会がありました。上原も設立にあたってお手伝いさせて頂き、座長も拝命しておりますので、今回のコラムではこの研究会の活動とその背景についてご紹介します。

 これまでにも、この種の警察組織と産学が連携するような研究会・協議会の類いは各地に設立されています。京都府でも、これまで京(みやこ)サイバー犯罪対策協議会という組織が活動してきていました。これは府警のサイバー犯罪対策課が事務局となり「産業界を始め、関係行政機関、教育機関等が緊密に連携して、インターネットの安全利用や日々進化するサイバー犯罪の被害防止等に関して協議・検討し、サイバー空間における安全と秩序の確保の重要性を社会に問題提起するとともに、インターネット利用者の規範意識・防犯意識を醸成し、サイバー空間における安全・安心を確保することを目的とし」ていました(設立趣旨より)。つまり、府民を守るための情報共有と啓蒙が目的だったと言えます。

 一方、今回の研究会は逆に「警察のサイバー事案対処能力を向上させる」ことを明確な目的にしています。もう少し具体的には、遠隔操作ウィルス事案などのような容疑者の追跡や証跡の評価が難しい事案にも対応できる高度な捜査技術の研究と、サイバー犯罪対処能力を持つ警察官の裾野を広げるための人材育成を主な目的にしています。

第308号コラム「標的型攻撃には内部不正対応が重要?」

第308号コラム:丸山 満彦 監事(デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 代表取締役社長、公認会計士、
公認情報システム監査人)
題:「標的型攻撃には内部不正対応が重要?」

今回は、内部不正対策の重要性を説明し、いわゆる標的型攻撃にたいして内部不正対策が重要であることを説明したいと思います。

従業員による金銭の横領、重要な技術情報や営業秘密の横流し、個人情報の売却など、従業員による不正は、従来から一定の割合で起こっています。私は職業柄、そのような内部者の不正に関係する仕事に関わることがたびたび有りましたが、会社が十分な内部不正対応をしていれば防げた場合がほとんどでした。つまり、会社の内部不正対応の不備が従業員による内部不正の温床になっているともいえるのです。

内部不正は、
1.機会 (不正行為ができる職場環境)
2.動機 (不正行為をしようとする本人の事情)
3.正当化 (不正行為を是認しようとする本人の事情)
の3つの要因がすべてそろった場合に起こりやすくなると、いわれています。これは、クレッシー(Cressey, Donald Ray, 1919-1987)が実際のホワイトカラー犯罪者に対して調査をして得た「不正のトライアングル理論(the theory of the “fraud triangle”)」といわれているものです。さすがに、理論的に実証的に分析し、論理的に整理されたものですから、不正の分析の多くの場面でこの考え方は有効だと思っています。

第307号コラム「尸位素餐(しいそさん)とは?―ビッグデータ時代の日本語の論理性と国際性」

第307号コラム:辻井 重男 顧問(中央大学研究開発機構 教授)
題:「尸位素餐(しいそさん)とは?―ビッグデータ時代の日本語の論理性と国際性」

このところ、NHKから「第2次大戦と暗号」について取材を受けている。我々、暗号研究者は、1970年代以降の、情報社会の基盤としての暗号を現代暗号と呼び、20世紀前半までの軍事・外交用暗号を古典暗号と呼んで区別している。

2016年からマイ・ナンバーの使用も始まり、本人確認やデジタル署名の基盤性は増すばかりだから、公開鍵暗号を初めとする現代暗号についても、メディアの関心を期待したいのだが、そうはいかないのが悩ましいところだ。

それはさておき、改めて古典暗号関連の資料を読み直してみると、それはそれで、これからの日本再生に向けて考えさせられることも多い。
冒頭にあげた「尸位素餐」という言葉をご存知だろうか。私も最近、小松啓一郎著「暗号名はマジックー太平洋戦争が起こった本当の理由」で初めて知ったのだが、「尸位素餐」とは、「高い官位にありながら、満足に職責を果たさず、給料だけを貰っていること」だそうである。
昭和16年(1941年)12月8日の真珠湾攻撃に始まる日米開戦を回避すべくアメリカとの折衝に当たっていた、野村吉三郎駐米大使は、遅々として進展しない外交交渉に失望し、「このまま、成果が挙がらないのに、給料を貰い続けるのは、心苦しいので、辞任したい」という気持ちを「尸位素餐」の四文字に託して、米国から日本に向けて暗号電文で送信したのである。この電文を傍受した、米国の暗号解読者は、日本人でも分からない漢語が分かる筈もなく、別の意味にすりかえて、米国政府に報告したのである。
これは一例であるが、暗号解読はできても、その翻訳ができず、好戦的に解釈された事例が多かったようである。こうした誤訳の積み重ねがなければ、日米開戦は避けられたかも知れないと、上記の著者は述べている。

第306号コラム「2014年度の研究会活動に向けて」

第306号コラム:佐々木 良一 会長(東京電機大学 未来科学部 情報メディア学科 教授)
題:「2014年度の研究会活動に向けて」

この4月からデジタル・フォレンジック研究会の活動も第11期となります。10期では10周年記念ということで、通常の活動に加え、次のような活動を実施してきました。

(1)「改訂版デジタル・フォレンジック事典」の出版(2014年4月下旬発刊予定)

(2)10周年記念式典の実施(2013年8月23日)

(3)功労者表彰の実施(2013年8月23日)

デジタル・フォレンジック研究会のこのような活動は世間の注目を浴びるようになっていき、2013年のデジタル・フォレンジック・コミュニティの参加者は328人を数えるまでになっていきました。また、デジタル・フォレンジックという言葉は、広く使われるようになり、一般のセキュリティ技術者が「フォレンジックする」というようなことを言うようになってきています。遠隔操作ウイルス事件の法廷でも「ファイルスラック領域」のようなデジタル・フォレンジックの専門用語が飛び交うようになっています。NISCのセキュリティ技術戦略の中にも重要技術の1つとしてしっかり位置づけられています。したがって、デジタル・フォレンジック研究会の重要性もますます増大していくとも考えられます。