第80号コラム「死者の代弁者」

第80号コラム:伊東 寛(シマンテック総合研究所 デレゥター 主席アナリスト)
題:「死者の代弁者」

このタイトルはオースン・スコット・カードの小説から取りました。以前からこの名称がとても気に入っているからです。これは、文字通り、死んだ人の代わりに彼の思いを述べる人のことです。

死人に口無し、歴史は勝った方が自分に都合よく書き換えた資料と文書の積み重ね、等と言われるように、過去の事実を掘りおこし真実を明らかにするのはとても骨が折れることです。誰かによって書かれたものがいつも正しいとは限りません。その人や組織にとって都合良く事実を歪めてあるかもしれないからです。そこで、人の思惑の入らない過去の資料をできるだけそのままに解析し理解しまとめ上げる態度が重要となる訳です。それは歴史の世界では考古学のある分野かもしれません。そして、我々、セキュリティ業界においては、それはフォレンジックに相当する部分でしょう。

でも、もし誰かが代わりに失われた真実を述べることができたら。それが「死者の代弁者」というわけです。今日は、フォレンジックというより、セキュリティにおける、ある死者の代弁者をしようと思います。その死者とはトロイの人々です。

第79号コラム「情報犯罪」

第79号コラム:坂 明 (慶應義塾大学 政策・メディア研究科 教授、IDF会員)
題:「情報犯罪」

サイバー犯罪、或いはハイテク犯罪、コンピュータ犯罪、ネットワーク(利用)犯罪といった言葉は、それぞれ一応定義があり、また一般的にもよく使われている。だが「情報犯罪」という言葉は、あまり使われていないのではないだろうか。

私が最近「情報犯罪」という言葉を使うのは、自分の中で、「サイバー犯罪」という切り口だけでは現在の事象を十分に捉え切れていないのではないか、という気持ちが強くなってきたことがある。もちろん、サイバー犯罪として対応しなければならない問題事象が深刻であり、その数も増加していることは、警察の統計やその他の機関のデータ、そして当研究会に参加されている方々の実感として明らかであると思う。ただ、ITC技術が広範に利用されるようになり、多くの犯罪者も様々な形でITCを利用している状況を見ていると、現在起っている事象を「サイバー犯罪」といった技術的な側面のイメージを与える言葉よりも、ITC技術を利用する人間とその利用対象に関わる「情報」という言葉と、現在の法律で犯罪化されている行為ばかりではなく社会や人々の生活に問題を引き起こすという意味での実質的意味の犯罪という言葉を組み合わせた「情報犯罪」という切り口で考えてみたい、との気持ちが強くなって来たのである。

第78号コラム「タイムライン解析で過去を探る」

第78号コラム:根岸 征史 氏(㈱アイアイジェイテクノロジー サービス技術部セキュリティサービスグループ マネージャ、IDF理事)
題:「タイムライン解析で過去を探る」

先月の技術分科会(「フリーツールを活用したディスクフォレンジック解析 ~タイムライン解析を中心に~」)でタイムライン解析 (Timeline Analysis)について、ツールの使い方などを中心に紹介しました。本コラムでは分科会での議論の内容も踏まえつつ、タイムライン解析の現状、課題などについてご紹介します。

 

1. タイムライン解析とは?

タイムライン解析は、ファイルシステムのタイムスタンプ情報などをもとに、過去の事象を時系列に整理して、そこから不正アクセスなどの痕跡を調査する手法のことです。伝統的なディスクフォレンジックの中でも基本となる解析手法と言えます。ファイルシステムは通常 MAC timesと呼ばれるタイムスタンプをメタデータとして保持しています。これは Modified, Accessed, Changedの頭文字をとったものです(*1)。この情報を調べることによって、いつどのファイルにどのような処理が行われたのか、おおよそのことがわかります。外部からの不正アクセスや内部犯行、マルウェア感染などの事象が発生した場合、対象システムのファイルシステムには何らかの痕跡が残ります。タイムライン解析を行うことによって、何が起きたのか、影響範囲はどの程度かを推測し、その後の調査や対応に役立てることができます。

第77号コラム「リスクコミュニケーションとマスメディア」

第77号コラム:舟橋 信 氏((株)NTTデータ・アイ 顧問、IDF理事)
題:「リスクコミュニケーションとマスメディア」

最初に、リスクの概念等について、述べたいと思います。

国際規格(ISO/IEC Guide 51:1999)において、リスク(Risk)は、人の健康、資産及び環境に対して危害や被害(Harm)を与える可能性(Probability)とその重大性(Severity)の組み合わせ(Combination)として定義されております。

その語源は、オンライン語源辞書(Online Etymology Dictionary)等によりますと、ラテン語のriscumが基となり、イタリア語で「危険を冒す」と言う意味のriscareから、riscio(現代語イタリア語:rischio)、riscoと言った言葉を経てフランス語のrisqueとなり、17世紀中葉に英語に移入されてrisqueとなったようです。なお、参照する辞書や論文により、前記の綴りが異なっている場合がありますが、ここでは、今回参照した辞書等の綴りを使用します。

リスクと言う概念は、Deborah Luptonの著書「RISK」(1999年)によれば、中世において、航海の危険性、いわゆる神の行為(act of God)に対する海上保険に関連して使われ、数世紀を経て、現在用いられているように、災害、感染症、犯罪、投資などの様々な分野において用いられるようになってきたところです。

最近の大きなリスク要因は、新型インフルエンザではないかと思いますので、「マスク」の話題を取り上げ、関係官庁と国民とのリスクコミュニケーションの問題について考察したいと思います。