第83号コラム「事故対応社会におけるデジタル・フォレンジックの役割」

第83号コラム:守本 正宏 (株式会社UBIC 代表取締役社長、IDF理事)
題:「事故対応社会におけるデジタル・フォレンジックの役割」

本年2月に内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)は「第2次情報セキュリティ基本計画」を策定し、その中では“あらゆる関係主体は、情報漏えい、情報システムのサービス機能低下・停止などの情報セキュリティ上の問題の発生を防止するべく事前対策に最大限の努力を行いつつ、それでも万が一の事態が有り得ることを認識し、これに向けた準備を怠らない”とする“事故前提社会”という言葉が使われております。そしてさらに“そして万が一の事態においては、その影響範囲、影響の度合い、緊急度、原因などの事実関係を明らかにしつつ、迅速な対応・復旧を広く進めることで、事業継続性を確保する”と続いております。本年のデジタル・フォレンジック・コミュニティ2009はまさにそれに呼応するように、“事故対応社会におけるデジタル・フォレンジック”というテーマで開催されます。そしてデジタル・フォレンジック・コミュニティ2009において“事故対応社会“としたのは、前述の後段に対応したものだと私は考えています。

私はデジタル・フォレンジック研究会の「技術」分科会の幹事をさせていただいているのですが、このコラムでは「技術」分科会が行う、「技術」事例説明・研究会の中身についてほんの少しだけご紹介したいと思います。

第82号コラム「医療におけるデジタル・フォレンジックについての一考察」

第82号コラム:伊藤 英一 (新潟県立新発田病院 循環器内科、IDF会員)
題:「医療におけるデジタル・フォレンジックについての一考察」

私は地方病院の内科医師である。デジタル・フォレンジック研究会には設立当初から参加していたが、フォレンジックという言葉をそれ以前に知らなかった。私がこの研究会に参加したのは、当時、勤務先でまとまった規模の情報システム導入の予定があり、これに関与する上で参考になりはしないかと期待したからである。そういう参加の仕方がこの研究会に相応しかったのかは分からない。以下に医療とデジタル・フォレンジックについて、この研究会に参加し、循環器内科医師として日常診療に多くの時間を割いている者として感じていることを書く。

 

医療の質をどうやって計るか、という問題に答えを出すことは意外に思われるかもしれないが今でも難しい。第45回コラムで和田理事が書かれたとおり、現在は各種診療ガイドラインが作成され、その内容は様々であるが医療の質の向上に貢献してきたと言える状況にある。私が医師になったのは二十数年前であるが、卒業後研修を始めてしばらくしてから医療の質ということを漠然と考えるようになった。当時、医療訴訟は今ほど身近な問題ではなかったが、前述のガイドラインのような考え方がない中で思いついたのは言わば反対の考え方、つまり法的に問題とされるような医療内容が医療の質の下限を成しているのではないか、それは何処ら辺にあるか、ということだった。

第80号コラム「死者の代弁者」

第80号コラム:伊東 寛(シマンテック総合研究所 デレゥター 主席アナリスト)
題:「死者の代弁者」

このタイトルはオースン・スコット・カードの小説から取りました。以前からこの名称がとても気に入っているからです。これは、文字通り、死んだ人の代わりに彼の思いを述べる人のことです。

死人に口無し、歴史は勝った方が自分に都合よく書き換えた資料と文書の積み重ね、等と言われるように、過去の事実を掘りおこし真実を明らかにするのはとても骨が折れることです。誰かによって書かれたものがいつも正しいとは限りません。その人や組織にとって都合良く事実を歪めてあるかもしれないからです。そこで、人の思惑の入らない過去の資料をできるだけそのままに解析し理解しまとめ上げる態度が重要となる訳です。それは歴史の世界では考古学のある分野かもしれません。そして、我々、セキュリティ業界においては、それはフォレンジックに相当する部分でしょう。

でも、もし誰かが代わりに失われた真実を述べることができたら。それが「死者の代弁者」というわけです。今日は、フォレンジックというより、セキュリティにおける、ある死者の代弁者をしようと思います。その死者とはトロイの人々です。

第79号コラム「情報犯罪」

第79号コラム:坂 明 (慶應義塾大学 政策・メディア研究科 教授、IDF会員)
題:「情報犯罪」

サイバー犯罪、或いはハイテク犯罪、コンピュータ犯罪、ネットワーク(利用)犯罪といった言葉は、それぞれ一応定義があり、また一般的にもよく使われている。だが「情報犯罪」という言葉は、あまり使われていないのではないだろうか。

私が最近「情報犯罪」という言葉を使うのは、自分の中で、「サイバー犯罪」という切り口だけでは現在の事象を十分に捉え切れていないのではないか、という気持ちが強くなってきたことがある。もちろん、サイバー犯罪として対応しなければならない問題事象が深刻であり、その数も増加していることは、警察の統計やその他の機関のデータ、そして当研究会に参加されている方々の実感として明らかであると思う。ただ、ITC技術が広範に利用されるようになり、多くの犯罪者も様々な形でITCを利用している状況を見ていると、現在起っている事象を「サイバー犯罪」といった技術的な側面のイメージを与える言葉よりも、ITC技術を利用する人間とその利用対象に関わる「情報」という言葉と、現在の法律で犯罪化されている行為ばかりではなく社会や人々の生活に問題を引き起こすという意味での実質的意味の犯罪という言葉を組み合わせた「情報犯罪」という切り口で考えてみたい、との気持ちが強くなって来たのである。