コラム第930号:「訴訟フォレンジックを通じて弁護士から得た視点」
第930号コラム:下垣内 太 理事(アイフォレンセ日本データ復旧研究所(株) 代表取締役)
題:訴訟フォレンジックを通じて弁護士から得た視点
今期より理事に就任致しました、アイフォレンセ日本データ復旧研究所(株)の下垣内太(しもがいと だい)です。どうぞよろしくお願い申し上げます。
今回のコラムでは自己紹介を兼ねて、民間のフォレンジック実務者が日常のなかで知ることのできた新たな視点について触れてみたいと思います。まず、私は企業・組織における不正や犯罪のデジタル証拠を探すために、パソコンやスマホのデジタル・フォレンジック調査に日々取り組んでいます。調査といっても解析だけではありません。関係者(当事者・弁護士)向けの説明資料の用意などのデスクワークもあります。
デジタル・フォレンジックといえばランサムウェア攻撃のようなサイバー事案の対処でも活用されています。そんななか私の主戦場はといえば、民事事件における訴訟フォレンジックです。会社の営業秘密が不正に持ち出された証拠探しであったり、未払い残業代の請求に対応するための情報収集が必要な場面でのフォレンジック調査のことです。タイミング的には、来たるべき裁判を見据えての実施もあれば、期日までに残された日数がわずかな状況で急いで調査スタートということもあります。事後対処のフォレンジックですので当たり前ではありますが、ほとんどの調査の始りは突然やってきます。もっとも私はデータ復旧技術者としてフォレンジックに関与し始めた経緯もありますので、突然の対処自体は特に新しいことではありません。それ以外にこの業務には、ある特色があります。それは「弁護士との出会いが多い」ということです。ちなみに何年か前に、相談者が選任した弁護士が偶然にも高校時代の同級生だったことがありました。会議で「久しぶり!」に続けてフォレンジックの話をしたわけですが、こんな珍しい再会もあるぐらい、この仕事を通じて日々初対面の弁護士の方々とお話する機会があります。
とはいえ本格的にデジタル・フォレンジックを活用された経験のある方との出会いは、今のところ多くはありません。なかには訴訟で効果のある証拠の入手に、懐疑的な方もいらっしゃいます。「〇〇が復元できないなら意味がない。」といったご見解です。もちろん、その通りな状況もあるとは思いますが、「フォレンジック」イコール「削除データの復元」ではありません。もっともっと把握できることがありますので「〇〇が復元できなくても、客観的に〇〇の経緯について示すことはできます。」といった具合に、調べることによって「何が分かるのか」をご説明するようにしています。
そうした日常業務のなか、つい最近ハッとした出来事がありました。調査報告会で、あるアクセス履歴について解析結果を提示し解説したときのことです。出席の弁護士から「その履歴はアクセスを開始したタイミングと理解しました。そこで質問です。各アクセスの終了の日時も解明できますか?」との質問を受けたのです。何に対してハッとしたかといいますと、その日時は記録されない仕組みであることを知っていましたので「判明しない」が正解ではあるものの、どこか自分のなかで「判明しないのが当たり前」になってしまっていたことに気が付いたのです。つまり日々のフォレンジック解析の積み重ねによって「判明しない」という知見が「思い込み」として定着してしまっていたのです。これは良くないです。「思い込み」が邪魔をして、いつかその日時が記録される仕組みに変わったとしても、証拠を見落としてしまうかもしれないからです。弁護士から得た大切な視点であり、かつ自分へのイエローカードともいえる出来事でした。※技術的な表現は意図的に概略化して記述しています。
業務を通じてさまざまな方々と出会うなかで、自分の未熟さを感じることは前述のエピソードだけに限らず他にも日々あります。なかでもやはり訴訟フォレンジックにおいては弁護士からのご質問やご指摘を受けて「なるほど!」と勉強になることが少なくありません。脳みそがプルプルっと喜ぶみたいな、そんな感覚です。それと同時に、デジタル・フォレンジックの活用方法についての情報発信については、まだ実施や改善の余地が残されているようにも感じています。極論をいえばエンドレスなテーマではあるわけですが、それでも例えばデジタル・フォレンジックの報告書という一般的な成果物に、具体的に何が書かれているかをご存じの方はそれほど多くいらっしゃらないのではないでしょうか。
さて、ちょうどこのコラムが配信されるタイミングは、おそらく当研究会が主催するIDF講習会の受講案内が開示されている時期だと思います。この講習会は年に1回のイベントでして詳細はWebに記載がありますが、座学タイプの講義もありますし、手を動かしての解析実習タイプのコースもあります。前提となる知識は、初級入門レベルから選んでいただくことができます。他にも年次イベントや分科会での講演会なども行われています。当協会では会員向けだけでなく、非会員でもご参加いただける学習の機会を設けております。ぜひとも積極的にご活用いただき、そこでの知見が皆様の実務における新たな視点と選択肢となることを願っております。
以上
※著作権は、下垣内氏に属します。
※本稿は筆者の見解であり、IDFの見解を示すものではありません。

