第191号コラム「原発事故は「水に流す」な」

第191号コラム:林 紘一郎 理事 (情報セキュリティ大学院大学 学長)
題:「原発事故は「水に流す」な」

3.11の東日本大震災の事故を、大規模な自然災害にとどまらず歴史に残る大惨事にしたのは、東京電力福島第一原子力発電所の放射線事故であった。その原因究明に当たっていた政府の事故調査委員会は、暮れも押し迫った12月26日に中間報告書を公表した。その内容は未だ確定できない部分(たとえば、津波だけが放射線事故の直接的原因なのか、それとも地震そのものも原因の1つなのか)がかなり残されているが、大筋は押えていて、委員会が精力的に調査・分析をしたことが伺える。

この委員会の長を勤めているのは、「失敗学」の提唱者として有名な畑村洋太郎氏(東大名誉教授)である。失敗学は、従来の学問がすべて「成功学」であったことを逆転させる発想で、私が関係している情報セキュリティなどでは、不可欠の発想法である。しかし、残念なことに「情報の公開」を制度的に保障するという伝統を持たない我が国では、分析に必要な事故情報が集まらないことから、失敗学会もできたが期待されたほどの成果を挙げていない。そこで今回のお役目は、同氏にとって「起死回生のチャンス」と思われ、分析に力が入っているのも頷ける。

第190号コラム「新しい年を迎えて」

第190号コラム:佐々木 良一 会長(東京電機大学 未来科学部 情報メディア学科 教授)
題:「新しい年を迎えて」

新しい年2012年を迎えました。2011年はまさに激動の年でした。「東日本大震災」は、大地震、津波、原子力発電所事故と連鎖的に発生し大きな被害を与え、今も「あけましておめでとう」等とは言いにくいような爪痕を残しています。

セキュリティ関係でもいろいろなことがありました。新しいタイプの攻撃が広がり、従来の対策では守りきれないような状況になってきています。このため、ネットワーク関連のログを保存し利用するネットワーク・フォレンジックの重要性が認識されるとともに、サーバなどのログとの相互関連を早急に確認できるシステムの必要性も増大してきています。また、従来のデジタル・フォレンジックがいよいよ実用段階に入ったなというのを強く感じます。個人情報の漏えいに関連して漏洩事実や漏洩経路を明確化するために民間でも専門業者に依頼してデジタル・フォレンジックを適用する機会が増えてきているように思います。さらに、デジタル・フォレンジックの専門家でない情報セキュリティ技術者がデジタル・フォレンジックに興味を持ちはじめ、昨年9月に「デジタル・フォレンジック製品&トレーニング概要説明会」を実施したところ多くの方々に参加いただきました。

第189号コラム「個人情報利活用と情報セキュリティ」

第189号コラム:秋山 昌範 理事(東京大学政策ビジョン研究センター 教授)
題:「個人情報利活用と情報セキュリティ」

未曽有の大災害のあった本年も、後5日を残すばかりとなった。一方で、高齢者率21%を超える世界一の超高齢社会を迎えた我が国では、財政難も加わり、高福祉社会が崩れようとしている。日本は平均寿命が長く、それを支える国民皆保険は優れた仕組みである。身分差がない上に所得の多寡に関わらずすべての国民が等しく世界最高水準の医療が受けられるため、他国であれば十分な医療を受けられない可能性がある人でも治る仕組みになっている。例えば、糖尿病性腎不全で透析を受けている方が、がん等の難病にかかった場合でも、治癒できるのである。その結果、複数の病気を持つ高齢者が多い世界一の超高齢社会になった。

一方、現状では、年金・介護・医療のIDがそれぞれ異なり名寄せができないため、高齢者が年金、医療、介護をどれだけ受けているのか正確に把握できず、社会保障資源の最適化の議論ができていない。財政難から歳出削減や増税等の議論が必要であるが、国民全体を巻き込んだ議論になっていない一因には、将来予測に必要なシミュレーションの正確性が低いことにもあるだろう。

第188号コラム「激動の一年を振り返る ~絆の重要性~」

第188号コラム:宮坂 肇 理事(NTTデータ先端技術株式会社 セキュリティ事業部 セキュリティソリューションBU)
題:「激動の一年を振り返る ~絆の重要性~」

今月12日に毎年恒例の日本漢字能力検定協会による今年の漢字が発表されました。今年の漢字は「絆(きずな)」でした。今年一年を象徴し、いま日本で一番大切な漢字でもありとても感慨深く思われます。

さて、今年一年を振り返ると、さまざまな事案が多く発生し、日本政府、企業、国民にとっても激動の一年であったと言えるのではないでしょうか。主だった事案を振り返ってみたいと思います。

3月11日の「東日本大震災」は、大地震、津波、原子力発電所事故と連鎖的に発生し、発生以降、国民の生活に影響を与え、日本経済にも大きな影響を与え続けています。これまでの備え以上に想定外の事案でした。「想定外」という言葉も頻繁に聞かれるようになりました。日本の歴史に残る大きな事案の一つであるとも思われます。
さらに、日本経済に影響を与えたのは7月に発生し予想外の影響を与えたタイの洪水です。日本企業は製造業を中心に経済的に有利なオフショアに生産拠点を設け、製造・開発を行ってきました。この洪水により、オフショアの生産拠点がダメージを受け、製品やサービスに全世界規模で影響がでました。日本企業においては、大震災時も同様の影響が国内外に起きていたが、連続して発生したことにより、問題は深刻化していったと思われます。9月11日には、2001年「アメリカ同時多発テロ事件」から10年を迎えました。この前後でも憶測が飛び交い、テロの恐怖をあらためて身近に感じた日でもありました。