第272号コラム「ビッグデータ時代におけるパーソナルデータを保護する義務と活用する責任」

第272号コラム:佐藤 慶浩 理事
(日本ヒューレット・パッカード株式会社個人情報保護対策室 室長)
題:「ビッグデータ時代におけるパーソナルデータを保護する義務と活用する責任」

 『保護する義務』

不明瞭なカタカナ言葉を使うのは好きではないが、本稿のお題には、あえて世の中で使われているカタカナを並べてみた。ビッグデータの説明は字数の都合で省く。いわゆるビッグデータだ(笑)。パーソナルデータという用語は個人情報と言えば本来済むべきところ、個人情報保護法が定義している個人情報より広い範囲で、個人に関する情報を議論するときに使われている、いわば机上の用語だ。「個人情報」は同法第2条で「特定の個人を識別できるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」と定義されており代表例は「氏名」だ。そこで、パーソナルデータは、それに加えて、その定義からはずれるが個人に関する情報も含めたものとなる。たとえば、購買履歴などが含まれることになる。「個人情報」と「個人に関する情報」を区別して文章にすると紛らわしいので、「個人情報」を「識別情報」と言い、それ以外の「個人に関する情報」を「属性情報」と言うことにする。すわなち、「パーソナルデータ=個人に関する情報∋識別情報|属性情報」という関係だ。その中には、位置情報などは、識別情報にも属性情報にもなり得るため、識別情報と属性情報は排他的な関係ではない。また、一般的には、ある識別情報と関係する属性情報は何かひとつの値を持つわけではなく、空間的にも時間的にも多くの値と関係することになる。たとえば、ひとつの「氏名」に「購買履歴」としては、いろいろな店や、同じ店でも違う日の購買履歴が結びつくことになる。

第271号コラム「情報セキュリティ、デジタル・フォレンジックに関する法律の過去と未来」

第271号コラム:須川 賢洋 理事(新潟大学大学院 現代社会文化研究科・法学部 助教)
題:「情報セキュリティ、デジタル・フォレンジックに関する法律の過去と未来」

デジタル・フォレンジック研究会も10周年を迎えることとなり、皆さん同様、非常に感慨深いものがある。当初は言葉すらまったく知られていなかったものが、この10年で、ITやセキュリティの専門家の間では多くの人々が知る言葉となったことの意義は大きいであろう。「次の10年では市民の誰もが知り得る言葉に!」……というのはさすがに無理であろうが、筆者としては、少なくとも法律を専門とする人の間では誰もが良く知る言葉になってもらいたいという願望がある。残念ながら法律家の間では、まだまだ「デジタル・フォレンジック」という言葉を知る人は少ない。「法医学のコンピュータ版です」と言っても、それでもピンと来る人は少ない。「パソコンをバラすの?(解剖するの?)」といった反応が返ることもある。まぁ、これは伝統的な法医学に対しても同様のことが言えるらしいが…。
しかしながら、法医学と医事法というものが表裏一体の関係にあり、医者と法律学者が共同でその研究に当たっているのと同様、デジタル・フォレンジックも技術者と法律学者が協力して発展させて行かなければならないことは言うまでもない。だけれども、この分野に関心を持つ法律家は前述のごとくまだまだ少ない。次の10年で何とか増えて欲しいものである。

第270号コラム「薬害対応とデジタル・フォレンジック」

第270号コラム:秋山 昌範 理事(東京大学 政策ビジョン研究センター 教授)
題:「薬害対応とデジタル・フォレンジック」

イノベーションなどの新しい国家施策が示され、iPSなど医療分野でもイノベーションが期待されている。医療分野における研究開発の最初は、山中教授が行っているようなラボの中での基礎研究、その次が前臨床というプロセスで、動物実験等を行う。ここまでは日本の得意分野だが、次の臨床研究になるとヒトへの研究を対象とし、今まではこの基礎と臨床の間にデスバレー(死の谷)があった。さらに、この最先端臨床研究と次の実用化(普及)の間にもっと大きなデスバレーがあり、医療については他の産業分野よりもはるかに大きな谷がある。どの分野でも大事だが、特に医療においては人命が第一であるので、まず動物で実験し、次いでヒトに応用する。ヒトを使う際の最大の制約は、倫理の問題とともに、経済的問題である。どんな産業でも同じだと思うが、出始めの最先端技術では、たとえ性能は良くても、多くのリスクが潜んでいる。

できるだけ早く普及させたいが、初期ロット不良はよくあるので、急速な普及にはリスクが伴う。したがって、初期の段階では慎重に投与する必要があるが、普及が遅いと新薬が必要な患者であっても、その恩恵が受けられない場合が出てくる。海外ではそのトレードオフ対策として、新薬承認後の初期段階においては限られた医療機関の恵まれた患者のみが最先端の治療を受けられるようになっている。別の言い方をすると、すべての市民が最先端医療を受けられるわけではない。

第269号コラム「通信の秘密の保護の限界について」

第269号コラム:石井 徹哉 理事(千葉大学大学院 専門法務研究科 教授)
題:「通信の秘密の保護の限界について」

1 電気通信事業法4条1項は、「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。」と規定し、179条で電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密を侵す行為に刑罰を科しています。もともと、電気通信事業法は、電気通信事業に関して、その公共性に鑑みて種々の規制をなすもので、罰則が表にでることはあまりなかったといえます。しかし、所管官庁による行政規制においては、通信の秘密侵害罪を背景として事業者に対する種々の行政法上の行為がなされており、所管官庁による法令解釈または事業者側の自主的なかつ自制的な解釈によって電気通信事業者およびその関係者の行動が制約されることになります。しかも、通信の秘密の保護は、罰則による担保をもって行政規制されることから、本法の通信の秘密侵害罪の解釈が裁判所による有権的解釈ではなく、所管官庁の独自の解釈が通用する結果となっています(刑罰法規に関する所管官庁の法令解釈が必ずしも正当とは限らないことは、石油ショックの際における通産省(当時)の行政指導等による価格カルテルについて、違法とされ、立件された事件(東京高判昭和55年9月26日高刑集33巻5号359頁)によっても、示されています)。
インターネット上の不正行為、犯罪行為の証拠収集にあたってはつねにこの通信の秘密の侵害が問題となり、原則として、法令により許容されている場合にのみ、その侵害が正当化されるにすぎません。この点に関して、現在一般にとられている通信の秘密侵害罪に関する解釈について、いくつかの疑問点を挙げていきたいと思います。