第127号コラム「ストーリーに翻弄される人たち」

第127号コラム:松本 隆 理事(ネットエージェント株式会社 フォレンジックエバンジェリスト)
題:「ストーリーに翻弄される人たち」

 人はいつも、想定外の出来事に遭遇すると「分かりやすいストーリー」を求める。たとえばニュースを通して理不尽な事件に憤り、なぜそのような痛ましい事件が起こってしまったのか、犯人は一体どんな人間なのか、関連する報道をつい追ってしまう。マスコミから提示されるストーリーが、自分にとってしっくり来るものであれば納得し、心のどこかでつじつまが合ったことに安心する。ただし、この分かりやすいストーリーには落とし穴がある。当たり前だが、ストーリーの分かりやすさと正しさの間には、何の関係もないはずである。しかし、分かりやすいストーリーは多くの人に共感され、信頼され、いつの間にか正しいものとして扱われてしまう可能性があるのだ。
 ストーリーの分かりやすさとはなんだろう。多くの場合、シンプルで論理的に矛盾がないことである。自分の価値感に照らしあわせて、結果が共感できるものならばなお良い。しかし、そこに「願望」が加わると非常に危険なものになる。このことは、近頃世間を騒がせている幾つかの事件を見ると理解いただけるだろう。

第126号コラム「PGPとSSLに関連した思い出」

第126号コラム: 佐々木 良一 理事(東京電機大学 未来科学部 情報メディア学科 教授)
題:「PGPとSSLに関連した思い出」

1.PGPに関連した思い出

デジタル署名や公開鍵暗号がセキュリティの専門家以外に注目されるようになるのは、1991年にフィリップ・ジマーマンがPGP(Pretty Good Privacy)という暗号とデジタル署名の機能を持つソフトをインターネットに無償で公開して以来であろう。この行為に対し、米国政府が暗号ソフトウェアに関する米国輸出規制違反であるとして、ジマーマンを逮捕したというニュースが流れた。これにより彼は受難者として有名になり、PGPも一般の人にも知られるようになった。

PGP開発者のジマーマンとは、一緒に食事をしたり、色々な話をしたことがある。いまから十数年前のドイツで行われた国際学会で彼が第一招待講演者、私が第二招待講演者だったからである。その会話の中で彼は、Pretty Goodというのは「かなり良い」という意味もあるが実は「非常に良い」という意味もあり、そのような思いで名前をつけたと言っていた。彼は、映画の大林監督に似た風貌であり、あたりも柔らかく話も面白かった。

第125号コラム「テレワークの普及とセキュリティ」

第125号コラム: 藤村 明子 幹事(NTT情報流通プラットフォーム研究所)
題:「テレワークの普及とセキュリティ」

 今回は、テレワークとそのセキュリティ課題をテーマに書きたいと思います。

 近年、ICTを使った働き方の多様化が進んでいます。『毎日、一定のオフィスに出勤して、働いて、帰宅する』という従来のモデルとは異なる働き方をされる方が徐々に増えています。こうしたオフィス以外の場所での働き方のうちICTを活用したものを「テレワーク」と呼称します。現在は総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省が軸となって『2015年までに在宅型テレワーカーを700 万人とする』という目標が掲げられています。

 テレワークが普及すると、組織にとってもメリットがあるといわれています。仕事の生産性・効率性の向上、通勤やオフィスのコスト削減、通勤に関する肉体的・精神的負担の軽減、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の促進などが主な点です。また、社会的要請として、環境負荷削減や、育児・介護に従事する者、身体障害者、高齢者等の労働機会の増加による経済効果にも期待が集まっています。

第124号コラム「デジタル完璧主義の敗北:国民IDと「消えた老人」」

第124号コラム:林 紘一郎 理事(情報セキュリティ大学院大学 学長)
題:「デジタル完璧主義の敗北:国民IDと「消えた老人」」

 去る7月30日に、国際公共政策研究センターの主催で、「共通番号制度の早期実現に向けて」というシンポジウムがあったので、出かけてみた。テーマに関心があったことはもちろんだが、「(ANAホテルという高そうな場所にもかかわらず)無料だが事前登録。先着200名まで」という設定にも、興味をそそられたからである。
その場で、違和感を持った点は3点。1つは、演壇に上がったパネリスト等6名の全員が推進派であったこと。2つ目は、事前に人物調査をしたためか(先着順と言いつつも、参加証が送られてきたのは直前であった)、フロアの参加者からも反対意見が全く出なかったこと。3つ目は、それらと連動しているのであろうが、入場時に簡易な名札を渡され、トイレに行って再入場する際にも首から提げるよう求められたこと。
 確かにパネリスト(特に政治家)からは、感情的な報道で「納税者番号」などを葬り去った(一部)マスメディアに対して、痛烈な(これまたやや感情的な)批判があった。また、「国民ID」という俗称を避けて、「共通番号制度」と称していることにも、摩擦を避けてまずは提言を聞いてもらいたい、という主催者の気持ちが感じられた。その意味では、会場のマネジメントは、良く練り上げられたものであったのかもしれない。

第123号コラム「大学等における安全保障輸出管理」

第123号コラム: 山田 晃 氏(慶應義塾大学 新川崎先端研究教育連携スクエアグリーン社会ICTライフインフラ研究センター(火~金) 研究支援センター本部・産官学連携コーディネーター)
題:「大学等における安全保障輸出管理」

 平成21年4月に、「外国為替及び外国貿易法(外為法)」の一部が改正され、技術取引規制の見直しや、罰則の強化が行われました。改正の詳しい内容については割愛しますが、現在では、安全保障上懸念がある貨物や技術(大量破壊兵器等の開発のために利用・転用可能な貨物・技術)等を外国に向けて提供する場合には、その全てが規制対象となり、経済産業大臣の許可が必要となります。

 この改正を受けて、継続的に輸出等を行う輸出者が遵守すべき事項を定めた「輸出者等遵守基準」が経済産業省により定められ(平成22年4月1日施行)、貨物の輸出や技術の提供を行う際には、この基準に従って行うこととされています。

 「輸出者等遵守基準」では、全ての輸出者等が遵守すべき基準として、①輸出管理の責任者を明確にすること、②関係法令の遵守を指導すること、③安全保障上機微な特定重要貨物(リスト規制品)等の輸出等を業として行う者は、その他の適切な輸出管理を実施すること、等が規定されています。これらは、反復・継続して、貨物の輸出や技術の提供を行う場合に適用されますが、その例としては、①海外の自社工場や得意先に自社の製品を輸出している、②新興国・開発途上国での需要が拡大しているため、販路拡大を目指して新たな輸出を計画している、③外国の研究機関との間で共同研究を開始し、図面やデータを送付する予定がある、等が挙げられています。