第216号コラム「サイバー犯罪条約の発効とその後」

第216号コラム:石井 徹哉 理事(千葉大学 法経学部 教授)
題:「サイバー犯罪条約の発効とその後」

1 昨年までの必要な国内法措置をへて、7月4日にサイバー犯罪条約(平成24年条約7号)が批准されました(国内法上は条約の公布によって、国際法上は受諾書の寄託によって手続が終了しました)。これによって、国際法上、本年の11月1日より日本について発効します。

 批准のためにおこなわれた国内法の整備状況については、すでに各所で説明されていますので、ここでは、条約の発効によって何が変わりうるのか、残された問題について考えたいと思います。

2 犯罪化、すなわち実体法にかかわる部分は、すでに必要な法改正によって整備されており、かつ原則として日本国内においてのみ妥当する(これを「属地主義」といいます)ものですから、変わるところはありません。重要なのは、手続に関するところとなります。例えば、これまで国境を越えた犯罪については、特別の条約を締結していない限り、外国に所在する証拠を収集しようとするならば、政府を通じて共助の依頼をし、相手国政府がその要請に基づき実施するというかなり面倒な手順をとる必要がありました。しかし、サイバー犯罪条約が発効した後は、コンピュータシステムに関する証拠収集については、直接捜査機関どうしの連絡によって共助が可能となります。また、その要請も、緊急時にはメールやファックスなどの簡便な方法をとることも可能になります。

第215号コラム「チェックアウト・プリーズ ASAP その1:人生のチェックアウト」

第215号コラム:林 紘一郎 理事(情報セキュリティ大学院大学 教授)
題:「チェックアウト・プリーズ ASAP その1:人生のチェックアウト」

まず始めにお断りしておきたいのは、以下の記述(連載で3回ほどになる予定)がフォレンジックにどのように関わるのか、私自身にも分からないことである。直接の関係はないにせよ、広い意味での社会現象に触れたものとして何らかのヒントになれば幸いであるが、ひょっとすると「風が吹けば桶屋が儲かる」と同程度に、迂遠な説明をしているだけかもしれない。時間を持て余している老人のたわごとを聞いてあげよう、というフィランソロピー的な気持ちで、お読みいただきたい。

去る3月の中旬に、母を亡くした。あと数日で97歳という大往生であったから、思い残すことは、さほど多くない。しかし、その死の前後における経験は、私に言いようのない不安(あるいは後味の悪さ)を残した。人生のチェックアウトは、すべての人に平等に(しかも1回だけ)訪れることであるが、高齢化社会の到来で従来の考えが通用しなくなっている。今後は自分の死後の対応についても、ASAP(As Soon As Possible) を旨として予め計画せざるを得ないことを、痛感させられたからである。

第214号コラム「官民連携モデル、InfraGard」

第214号コラム:舟橋 信 理事(株式会社UBIC 取締役)
題:「官民連携モデル、InfraGard」

この1年あまり、我が国有数のグローバル企業から、過去最大のネットユーザーに係わる個人情報の大量流出事案が発生した。この事案は、ゲーム機のジェイルブレイク(Jailbreak)への対応に起因するハッカー集団とのトラブルによるものと推測されるが、実態は明らかではない。また、防衛関連企業や国会等からの情報窃取を目的とする標的型サイバー攻撃事案の発生は、関係者に大きな衝撃を与えたところである。

警察庁では、このような事態に対処するための官民連携の取り組みが行われている。一つ目は、標的となり得る民間事業者等とのネットワークづくりであり、サイバー攻撃事案に関する情報を集約・分析して、注意を喚起する取り組みとして「サイバーインテリジェンス情報共有ネットワーク」が設置された。二つ目は、警察庁が把握した不正プログラムや脆弱性に関する情報を、民間のウィルスソフト提供事業者などと共有し、社会に還元する取り組みとして情報セキュリティ関連事業者で構成された「サイバーインテリジェンス対策のための不正プログラム対策協議会」が設置されたところである。

第213号コラム「第2回IDF講習会について」

第213号コラム:丸谷 俊博 理事・事務局長(株式会社フォーカスシステムズ 新規事業推進室 室長)
題:「第2回IDF講習会について」

今回のコラム第213号は、6/8(金)に開催案内を公開し、参加受付を開始致しております第2回IDF講習会(製品&トレーニング等概要説明会)について書かせて頂きます。

IDF講習会は、以前より構想はありましたが一昨年来のデジタル・フォレンジックが適用される事件等が多く報道されるようになったこと等から社会的認知や関心が高まったこと等を背景として前期(第8期)に第1回目の開催を実現することができ、参加申込期間が短かったにも関わらず多数の参加者を得、好評を博すと共に今年の開催要望も多いものとなりました。このため今期(第9期)も第2回目の開催を活動計画に含み準備を進めて参りました。

第2回IDF講習会は、第1回と同様に9月上旬の9/13(木)、14(金)に八重洲カンファレンスセンターにて1コース3時間枠にて1日9コースを実施致します。また、両日とも同内容で行いますので午前または午後に並行しているコースも日を変えることによって受講することができますのでプログラム編成を確認して受講コースをお選び下さい。
尚、IDF講習会は、IDFの全団体会員にコース引受意向の確認を行い、応じて頂いた団体会員の提供コースでプログラム編成を行っております。IDF事務局としては、多くの団体会員にコース引受を行ってもらいたい(増えた場合は借用室を増やす等の対応を準備)としておりましたが各団体会員の開催時期における業務状況や人的リソース等の諸判断と各コース自体は各社のボランティアによる経費負担となる等の事情から第2回IDF講習会のコース引受は、4社、1提携団体となりました。ご理解をお願い致します。

第212号コラム「ネットワーク・フォレンジックの経験から得られたこと」

第212号コラム:名和 利男 理事 (サイバーディフェンス研究所 情報分析部 部長 上級分析官、「技術」分科会主査)
題:「ネットワーク・フォレンジックの経験から得られたこと」

筆者は、デジタル・フォレンジックやマルウェア解析を行うメンバを有するインシデントレスポンスチーム(CDI-CIRT*)の統括を担当しているが、このチーム或いは個別メンバに、国内外問わず信頼ベースで、インシデント対応に関する相談や依頼が数多く届いている。緊急性や重要性の高いものについては、可能な限りの対応を行なっているところである。

*CDI-CIRT:www.first.org/members/teams/cdi-cirt

この対応支援の経験の限りで言えることであるが、昨年(2011年)より、組織内のコンピュータシステムにおいて、情報搾取を目的としたマルウェアの感染インシデントが急増している。この表現をもう少し正確に表すと「マルウェアに”感染していた”ことが発覚した」であり、実際の感染時期は、デジタル・フォレンジック技術により判明したものだけでも、「発覚の数ヶ月前から数年前」というのが当たり前のようになってきている。

インシデント対応支援を始めた当初は、「デジタル・フォレンジック」或いは「マルウェア解析」という手法のみで、支援が完了することがほとんどであったが、最近は、それらだけで完了することが少なくなってきた。次のような別領域の手法や追加的手法により支援することが多くなってきている。(名称は、CDI-CIRT 独自の定義である。)